2月19日に札幌市で開かれた「北海道の市町村合併を考えるシンポジウム」(北海道主催)の基調講演とパネルディスカッションの要旨をダイジェスト版としてリポートします。 |
基調講演
テーマ 「市町村合併〜国の立場、市町村の立場」
講 師 小西 砂千夫さん(関西学院大学大学院教授)
講師の小西砂千夫さんは、関西学院大学大学院教授で、国と地方の行政改革、地方自治体の予算決算制度、財政投融資、震災復興、地方行財政、市町村合併などを研究テーマにしています。ご自身のホームページ(http://www.stylebuilt.co.jp/konishi/)では、研究論文などを全文公開し、市町村合併に関する論文も多数収録されています。
1. 合併は火災保険と一緒だ
結論から言うと、合併問題は総論でなくて、各論なのです。個別の自治体にとって合併することが損なのか得なのか。損得勘定で早いところ腹をくくるべきだと思います。
国地方合わせて私たちは666兆円もの借金を背負っています。東京都などは、都市で集めた税金が地方に回されるのは理屈に合わないという声を強めてますし、やがて東京から地方にカネが流れてこない時代がやって来るかも知れない。
最近、評論家の西部邁さんが、財政的な裏付けもない北海道の独立論に厳しい評論を書いてますが、総じて大学や自治の「業界」は危機に対する感覚が鈍い。「きっと誰かがなんとかしてくれる」とタカをくくっているところがありますね。
しかし、先々のことを考えたら、自分たちの身を守る手だては考えておいた方がいい。合併で身を守れない所もあるけれど、守れるところもあります。いざ火事になって保険に入っていて「良かった良かった」ともならないが、絶対火事にならないという保証はないわけです。そういう意味では、市町村合併は火災保険と一緒なんです。
2. 結論はこの1年以内に
合併特例法は、それなりに得な内容になっています。ただし、平成17年3月31日までと期限が切られています。それまでにゴールインしなければならないわけですが、実際には市町村合併がまとまるには時間がかかります。任意協議会で十分内容を詰めて、法定協議会は簡単な手続きで済ますとか、法定協議から入ってじっくり議論するなど、プロセスがいくつかありますが、どちらにしても話がまとまるまでに最低3年はかかります。
今ならまだ4年ありますから、このシンポジウムのように大勢のみなさんが集まって「これからのまちづくりを考えましょう」でいいと思います。しかし、1年後にこんなことをやってるのではとても間に合いません。その時には、小部屋に区切ってまち同士が合併するのかしないのかで議論してるようでなくてはなりません。
結局、総論であれこれじゃなく、やはり合併問題は個別論、損得の問題。だから、横並びではなくて、損得計算で早く腹をくくるべきなのです。
3. 首長と議員が腹をくくる
一般論としては、大きな市街地に隣接した所は合併した方が「得」でしょう。だから、京都のような所では、車を1時間も走らせれば市街地に当たりますから、合併の議論は簡単です。それに対して広い北海道では、可住地面積とか地理的な条件とかいろいろ考慮しなければなりませんが、「今のままではまちを守っていく自信がない」というのであれば、合併を考えてみるべきでしょう。
大事なことは、合併した場合に想定されるデメリットを克服可能かどうか、具体的な議論をすることです。克服が難しいとなれば、合併とは別の生き方を議論すべきでしょう。
この見極めは一般の住民では無理でしょうが、首長さんと議員さんなら見極めがつくと思います。自分のまちと相手のまちを見比べて、合併後をイメージすれば、合併が得なのか、デメリットが克服できるのか判断できるのではないでしょうか。
そうなると、合併問題は首長と議員の腹一つ。どちらを選択しても後で文句を言う人はいるのだから、 確信を持って判断すべき。まちの未来を決める大事なときに政治家であったことを感謝して、腹をくくるべきです。
4. 誰が合併を進めたがっているのか?
行政改革大綱原案では、自治体数は千を目標とする与党の認識を踏まえて合併を推進する、とされてますが、これは「小規模自治体は無駄だから、もういらない」と言っているのに等しい。町村会からは「とんでもない話だ」と批判が吹き出してもおかしくない内容ですね。
それまで「合併したかったらどうぞ」という姿勢が、平成11年8月から「合併推進」に変わりました。合併を進めたがっているのは、自民党なのだと思います。自民党は元々、草の根保守の受け皿として存在してきたわけですが、最近の選挙では、県庁所在地で勝てないという状況が強く現れてきています。
都市住民にエクスキューズできないということは、政権を維持する上では大きな問題なわけです。だから、合併推進は理念ではなく、農村政党から都市政党へのシフトが狙いなのだと思います。ただし、民主党も自由党も合併には賛成の立場です。
5. メリットは行政組織強化ただ一つ
合併のメリット、デメリットということが論議になります。その中で、合併すると「きめ細かな行政サービスができなくなる」という意見がありますが、そんなことはありません。確かに、本土なら500-700平方キロメートルが面積の限度で、北海道では千平方キロメートルになると無理でしょうが、問題は地域統治として目配りのきいた政治ができるかどうかです。現状のままでも目配りがきかないなら、合併したって良くはなりません。
合併のメリットというのはただ一つ。合併すれば、それまで以上に専門性のある職員を多数抱えられ、市町村に与えられたワンセットの仕事をこなせるようになるという、ことなのです。
たとえば、人口5千人ぐらいの町は職員が100人程度、10万人の市なら約千人。規模が違っても、市町村がやらなければならない仕事はワンセットあります。しかも、行政というのはすべて法律に基づいていますから、職員は法律の専門家でもなくてはなりません。そうなると、やはりまちの大小に関わらず千人くらいの職員は必要なのです。
職員100人の町では、1人が市役所の10人相当の仕事を背負っているわけです。現実には、一部の職員の奮闘と都道府県庁のサポートで、ようやくこなしているのです。これは500人いても、相当に辛い。従って、合併には、ある程度の職員の数と質を確保できるメリットがあるわけです。
6. 「部分自治体」による生き残りの道も
政府が思うように合併が進まない場合、平成17年3月31日までと限っている合併特例措置の延長が焦点となりますが、単純延長は意味がないと思います。もし、これまでのように市町村がワンセットの行政をやるという前提に立てば、国による強制合併もあり得えます。
合併ができないとなると、ワンセットをあきらめるという考え方もあります。最小限で福祉と防災、それに衛生の一部に限って町村が担当するのです。これなら職員は10数人で済むので、人件費も1億数千万で足ります。税収が3億円ぐらいあれば、なんとかやっていけるという計算です。
これは昔の2級自治体のようなものですが、「部分自治体」とでも呼んだほうがいいでしょう。基礎自治体は税収でやれる範囲をやる。ほかは道がやる、といった考え方ですが、そんな方法を北海道は具体的に考えてはどうでしょうか。
そうすると、大きな市街地に隣接した自治体などは、合併してワンセットの行政を行い、地理的な条件が悪いまちやどうしても合併はいやだというまちは、「部分自治体」を選択するということです。いずれにしても市町村は、どうしたら身を守っていけるのか、具体的な議論が必要な時期にきていると思います。
パネルディスカッション
テーマ 「これからのまちづくりを考える」
宮脇 淳さん(北海道大学大学院教授)
■コミュニティを生かす方向で地域戦略を
国、地方とも深刻な財政危機を抱えているけれども、国の赤字はいくらでも減らせる。地方を干せば国の財政は健全化できるからだ。国が政策評価を導入したことで、合併の推進状況が旧自治省の評価資料にだってなり得る。遠い将来と思っていたことが突然やって来るかも知れないことを肝に銘じ、市町村は今からの備えが必要だ。特に、市町村を取り巻く環境を十分認識した上で、どんな道を選択すべきなのか地域で十分考え、地域戦略を立てることが必要だ。
地域を支えているのは自治体だけではないし、コミュニティ、市町村、経済圏域が画一的にあるわけでもない。地方行政の限界を明らかにすべき時代でもあり、統治体としての自治体がなくともまちづくりはできる、という議論も必要だ。地域づくりが下から上へ向かう構造の変化があってもいいのではないか。市町村がワンセット持って行けないとすれば、行政がどこまでやるか、組み合わせや役割の限定、分担を考える道もある。コミュニティを生かす方向で考えてみてはどうか。
これからのまちづくりは、人口の減少を前提に考えなければならないが、人口が9千から7千人に減って、それでも素晴らしい地域になる道を示せれば、合併にこだわらなくてもいい。地域経営と地域の経済、所得をどうするか、合併も含めていろんな方向を住民含めて論議す勇気が必要だ。
並河 信乃さん(社団法人行革国民会議理事)
■自己循環可能な「北海道方式」を探れ
早晩地方にカネが回らなくなる時代がやって来る。このことを前提に、今からあの手この手をこらしたまちづくり考えるべきだ。地域の税収を上げるための産業経済の議論も重要だと思う。
合併が進まない理由として「首長、議会が問題」という声があるが、半分間違っている。合併に反対なら別の方法を具体的に提起すべきではないか。生活圏が広がり、職場と生活の場が別々になる時代にあって、1人の生活サイクルを1つの自治体でカバーするのは無理なのではないか。たとえば、その地域からあまり動けない人を対象に、市町村の役割を教育や福祉に絞るなど割り切った考えもある。そんな発想に立った「北海道方式」のようなやり方を考えてみてはどうか。
北海道が自前で食っていくための目標を立てて、市町村が戦略を組む。ITとネットワークの時代なのだから、外部と提携したプロジェクトも可能だ。北海道の中で自己循環できる仕組みを作るべきだと思う。
山田 晃睦さん(栗沢町長)
■次代に夢託せるまちづくりを模索
市町村合併をやるとなると大変なことだ。今は自分たちのまちを少しでもいいようにと頑張っているのに、「さあ合併で」といわれても単純には行かない。地方と都市の対立がもっと激化することは十分予想されるが、大きなまちに吸収されて、自分たちのまちが影のようになってしまうのがこわい、という思いもある。もっと危機感を持つことも必要かなとは思う。少なくとも、次の子どもたちに希望をつなげるような道を真剣に考えていく。
江崎 満さん(前芽室青年会議所理事長)
■住民が本気でまちの未来を考える
合併をテーマに議論しようとすると、合併することが前提のように取られてなかなか議論に入れないようにも思ったが、芽室町でファーラムやアンケートを呼び掛けたところ、予想以上に関心を持ってもらえた。10年後、20年後の生活や子どもたちのことを考えると、自分たちのまちのことは自分たちで考えなければならない。住民が本気で考えることで、まちづくりの可能性も広がると思う。場合によっては、ごみ回収や除雪を住民がある程度我慢することも必要だと思う。
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