ダイジェスト・リポート

北大高等法政教育研究センター公開シンポ
「分権時代の自治体改革と住民参加」

2001/07/09

 

 「地方分権時代の自治体改革と住民参加」をテーマに7月7日、札幌市・北大クラーク会館で開かれたシンポジウム(北大高等法政教育研究センター主催)の基調講演の要旨です。

【基調講演】

講師:北川正恭 三重県知事
テーマ:「三重から始まる市民革命」

 ■変革の時代、利益誘導から目的達成型の行政へ

  ヒトゲノム研究やナノテクノロジーに象徴されるように、人類は今、未到達な領域に足を踏み込もうとしている。大転換期においては、ピンチに思えるものが実はチャンスでもある。新価値を創造できる時代と積極的に受け止めるべきだ。  そうした時代認識の中で知事に就任し、従来型の「利益誘導型」の県行政はやめ、「理念追求・目的達成型」の地方自治を目指そうと決意した。

 ■「生活者起点」をキーコンセプトに

  さまざまな取り組みは、県職員の意識改革であり、県庁改革であり、180万人の県民の改革を目指した積み重ねにほかならない。そこで原点となるのは、「生活者起点」の考え方だ。集めた税金をどう使うか・どう山分けするかではなく、タックスペイヤー(納税者)の立場に立って、県民が満足できるサービスやサポートをする行政をキーコンセプトに据えた。

 県庁内には、県民不在の「仲良しクラブ」と談合が随所に見られ、県民の利益に直結する事業部門よりも総務・管理部門が重視されてきた。異質な文化にも目を向けるセミナーや職員プロジェクト提案、ISO14001取得など「さわやか(サービス・わかりやすさ・やる気・改革)運動」の積み重ねが、職員意識と行政そのものに変化をもたらしている。官官接待・カラ出張問題も、県庁を変える絶好のチャンスとし、「返還・処分・改良」を自主的に決めた職員に対する県民の感情も変化してきた。

 ■キーワードは徹底した「情報提供」

  生活者を起点とするから、行政をオープンにしながら、一つずつ解決していくことに徹した。情報公開から一歩進め、情報提供を徹底することで、県民が政策決定過程に参画するように努めた。いわば県民を協力者・共同正犯にしているわけだから、県民も責任を分担する。それだけ県民にとっても辛いことだが、自分たちの意思で修復も可能となった。

 したがって、「主権在民」ではあっても、民主主義はその県民のレベル以上のものにはなり得ず、県民一人ひとりの意識と行動の総和で決まる。国に頼った「お任せ民主主義・要求民主主義」では地方が自立できないことだけは、確かだと思う。

 ■評価システムが県政・県議会を変革

  県政改革のコアとしたのが事務事業評価システムだった。地方財政は予算主義だから「要求」と「山分け」の調整が主とされてきたが、決算主義にシフトし、1億円の予算がどれだけ県民のプラスになったかを重視することとした。最小の事業で最大の効果を上げるにはどうしたらいいか、それを考えるシステムだった。

 このシステムにより、当初3300あった事務事業を、6年間で2400に減らすことができた。評価が行われ、情報公開も行われるから、利益誘導による予算付けや事業はすぐばれるし、議員や業界の圧力や癒着も通用しない。評価システムと情報公開は、県議会・議員のあり方も大きく変えている。

 ■国と地方、「上下・主従」から「対等・共助」の関係に

  公共事業はやったらやったでなにがしかの効果はあるが、問題はその効果の度合だ。たとえば、三重県では10か年計画で県内755本の道路のうち280本を優先整備することにした。従来の縦割り行政では「あれも、これも」となるが、公共事業全体を一緒にして優先順位を付けた結果だ。中央から「国の道路計画の先を勝手に行くな」という声が聞こえてきたが、国と地方を上下・主従の関係とする時代は、終わったと思う。

 分権一括法案が昨年施行され、国と地方の関係は大きく変わった。国の言いなり、予算の下請機関の地方自治体は、今まで上ばかり向いてきたが、これからは県民・市民に対して説明責任をきちんと果たさなければならない。

 ■自治体職員、そして全国民が試されている

  昨年発足した労使協働委員会は、県民満足は県職員の満足とイコールだとの考えに立って、労使が真正面から議論する場として誕生した。マスコミが同席し県民注視の中での議論は、緊張感あるパートナーシップを作り出し、職員のメンタルヘルスケアや日本一の研修費などに、その成果が表れている。

 全国の地方公務員320万人が立ち上がれば、本当の民主国家を築くことが可能だと思う。地方から国を変えるということでは、全国民が試されているのだとも思う。

 ●北川正恭三重県知事のプロフィール 

 1944年、三重県生まれ。早大商学部卒。三重県議、衆議院議員を経て95年の三重県知事選挙で初当選。40年間続いた官僚出身知事による県政を、生活者優先の県政へとリードし、浅野史郎宮城県知事、増田寛也岩手県知事らと並んで地方行政改革の旗手と呼ばれています。

 庁内改革は、名刺の公費負担、庁内分煙、カジュアルウエアデーの設定など多彩で、職員提案4067件のうち82件が総額19億円で予算化されました。最近では、産業廃棄物税の導入や、原発立地計画の白紙撤回要求など改革派知事として踏み込んだ政策、行動も目に付きます。

【シンポジウムの発言から】

 ●陳情行政はもう通用しない―山口二郎北海道大学教授

 小泉内閣の「骨太の方針」は、地方の個性と自律、地方再編をうたっている。従来型の陳情を繰り返すばかりでは、構造改革の議論にとても太刀打ちできない。地方自身がどう自律するのか、対案をどう出すのかが重要だ。むしろ、地方からいろいろなアイデアを国に提起していくべきだ。

 ●北海道で分権モデル先行を―磯田憲一北海道副知事

 今、地方自治体は、地域の潜在的な能力をどう生かすかが問われている。北海道の根元的な価値に気付き、発掘し選択し、創造することが大事だ。北海道が海に囲まれた、完結型の地域であるメリットを生かして、地方分権のモデルとして道州制を先行させるのはどうか。小泉改革のある部分を活用しながら、北海道を構造改革のシンボルとするような、したたかな発想と戦略も必要だと思う。価値の転換の中で、支庁や道庁の機能、役割を考えていかなければならない。

 ●市民参加の仕組み作り目指す―田岡克介石狩市長

 わずかな間に人口が急増した石狩市では、行政に対する住民ニーズは量、質とも膨大なものがある。このため、職員の意識改革とともに、市民自身がまちづくりを考える仕組みとチャンスを作ろうと、「市民参加推進条例」の制定に取り組んでいる。地方財源の確保など小泉内閣の地方改革論には見えない部分があるし、石狩はまだ発展途上の市だが、どう自律するのか、個性とは何かを改めて考えていかなければならない。これからは高規格道路なのか、あるいは砂利の馬車道でいいのか、といった選択を住民自身がしていかなければならないのだと思う。

 

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