ダイジェスト・リポート

京極町、倶知安町、ニセコ町
「将来の行政体制を考える首長懇談会」第2回
「市町村合併の意義は?」

2001/09/28

 

 市町村合併問題を中心に、京極、倶知安、ニセコの3町長が公開の場で意見を交わす2回目の懇談会が9月28日、ゲストに市町村合併推進の「本丸」である総務省自治行政局の行政体制整備室長を迎えて、ニセコ町民センターで開かれました。同室長は、「市町村合併の意義は?」をテーマに基調報告、管内町村職員、住民ら約300人を前に、合併の必要性を説きました。その概要を報告します。

基調報告

講師:高島 茂樹 総務省自治行政局行政体制整備室長
テーマ:「市町村合併の意義は?」

 ■「借金」でサービス維持

  恐らく住民の皆さんは、「今の行政サービスに特に不満はない。そこそこやっている。なぜ無理をしなければならないのか」と思っているのではないか。「なんとなくやってきた。これからも・・・」と。ところが実はそうではない。皆さんは今、国、道、市町村から「実力」以上のサービスを受けている。「実力」とは税だ。ここ数年、税収は減り、今の公共サービスを維持できないところまできている。

 では、なぜ同じサービスが続いているのか。借金だ。国の年間予算はざっと80兆円。それに対し税収は約50兆円。残りは借金。それを返すのは、皆さんの子どもや孫ということになる。その借金が666兆円にもなった。日本のGDPが約500兆円だから1年の経済活動の1.3倍。こんな先進国はどこにもない。「このままでは、もしかしたら国債が売れなくなるのでは」というのが政府の心配だ。国も国際経済の中では民間と同じ。借金できなくなったらおしまいだ。国が揺らげば、一自治体ではどうにもならない。まずそういう危機感を持っていただきたい。

 住民の負担と選択による行政

 では、市町村合併の意味はどこにあるのか。何より、限りある税を大事に無駄なく使うことが重要だからだ。税には現在、国、道、市町村に行く分があり、国の分は、交付税などとして、また地方に降りて来る。結論からいうと、これからは、住民に一番近い市町村に税源、財源をあずけることで、住民の負担と選択による行政システムを目指してもらう。「良いサービスだから、もっと税を払っていい」と言うか、「こんなサービスいらないから、税を下げてくれ」と言うか、それは住民の選択だ。そのために、市町村に必要なものが2つある。ひとつは、合併による行政能力の向上だ。住民に選択肢をいろいろ示せる能力を持ってもらう。そしてもうひとつが、それを実行できる財政能力だ。国がお金を集めて配分すると、血税だという認識が薄くなるし、国が打ち出の小槌を持っているわけでもない。

 ■21世紀は市町村の時代

 組織規模が小さいと、1人の職員の仕事量は増える。民間企業なら、企業規模によって、やる仕事の内容も違うが、市町村はそうはならない。自治体規模が大きくなれば、1人でやっている仕事が係で、課で、さらには部でできるようになる。これまで、そうした市町村規模によるサービスの差がどうして目立たなかったのか。国、道が一定水準を示し、材料、情報を流し、「ああせい、こうせい」と言ってきたからだ。しかし、もうそういう時代ではなくなってきた。自分たちで考え、自分たちで決める。市町村はこれから、見る方向を国、道から、住民に変えねばならない。「国が言っている」「道が言っている」という時代ではなくなる。だから、住民の声に応えられるマンパワーの厚みを市町村に確保してもらう必要がある。市町村はこれから、新たな対応を求められることが次々と出てくる。どんなに優秀な人材でも絶えず研修、訓練が必要になる。だからこそ、マンパワーの厚みが必要になるのだ。

 では、道はどうなるのか。市町村中心の内政体制が整うに従い、道の役割は大きく後退することになる。広域行政体に特化していくだろう。市町村への財政支援のために必要というなら、市町村に財源を与えればいい。21世紀は市町村の時代だ。住民の要望は市町村の首長が一括して引き受ける時代がもう少しでやってくる。そのためには、市町村を強くする必要がある。(合併による)新しい行政体制がそれだ。これは内政改革の第1歩だ。

 ■都市人口も減る時代

 次に、地方行政の構造改革について考えたい。現在の市町村の区切りは50年前にできた。それを今も使っている。50年前、隣りの市町村との時間的距離感はとても遠かった。今、多くの情報が共有でき、車もある。隣り町に買い物などに行くのに違和感はなく、町境界を意識することもなくなった。要は、体は大きくなったが、洋服は昔のまま小さいのを着ているようなものだ。住民の生活行動が変わり、税を納めるところと行政サービスを受けるところ、つまり受益と負担の関係が切れ、住民の選択と負担による行政が成り立たなくなっている。

 少子高齢化の問題もある。2005年を過ぎると、日本全体の人口が減少し始める。過疎地ばかりでなく、都市でも減る。税を納める人が減り、税を使う、つまりはサービスを受ける人が増える。今でさえ、収支の帳尻が合っていないのに・・・。サービスを下げるか、税を上げるかということになる。合併は地方の切り捨てと言われるが、そうではない。少子高齢化の影響をまず受けるのは地方だ。合併を考える上で大切なのは、市町村という団体を守ることが大事なのか、住民が今後も生き生きと暮らせるサービスを、税負担を上げずにできる体制を作ることが大事なのかということだ。住民は市町村(という団体)を維持するために税を納めているのではない。

 ■合併は新しい「まちづくり」

  市町村合併は、民間企業の合併とは違う。新しいまちづくりだ。境界を取り払うことで、人材、産業基盤、文化などを有機的に組み合わせながら新しいまちをつくると考えてほしい。これまで合併したところには、どこも熱気、熱意がある。真剣に論議しているからだ。(合併を)10年先、50年先のまちについて考える機会にしてほしい。そのための財源は用意している。この(倶知安、ニセコ、京極)3町で100億円くらいになる。(自治体規模が)大きくなってできることがいろいろ出てくるはずだ。スケールメリットで、節減できるものも多い。合併はピンチではなく、チャンスだ。

 ■デメリットは懸念と不安

 全国各地でいろいろと議論してきたが、合併のデメリットは、改革に伴う懸念、不安だ。これは実は、徹底的に議論すればなくなる。努力すれば解決できるものばかりだ。その多くは、合併する、しないにかかわらず、役場がすでに持っている課題だ。役場は遠くなっても支所はできる。一般住民が役場に年に何度、何をしにいくか考えてみてほしい。大方は住民票などの書類をもらいにまれに出向く程度ではないか。面積が広くなるというが、面積の広い町村が広域行政をすでにやっている。○○一部事務組合が○○市になって何が困るだろうか。広域行政はすでに合併の一部をやっているのだ。中心部と周辺部は現在の町村にだってある。だからといって行政サービスに差があるだろうか。ただ、施設については、(町村ごとにあったものが)どこか一つになることはある。財源からみても、共同で利用してもらうしかないだろう。

 ■まず協議会で「絵」を

 最後に、これまで何とかやってこれたから、これからもやっていける、というのは幻想だ。ニセコ町がかつて(狩太町から)名前を変えた時、勇気がいっただろう。今、その勇気を持って現状を変えてもらいたい。その論議のためには、まず絵を描く必要がある。新しいまちはどうなるか。そういう情報が必要だ。とにかく協議会を作ることだ。合併論議は、拙速ではいけないが、無駄なところに時間をかけるべきではない。入り口で不安、懸念を言い合う状況をまず脱するべきだ。

各町長との意見交換】

 ●伊藤弘 倶知安町長

 「均衡ある発展」から「自立、競争」へと方向を変えられ、ある意味、捨てられたと思う町村もあるのでは。合併せず、残された町村は一体どうなるのか。合併せずに立派にやろうろする町村の道は狭められているのか。また少子高齢化については同感だが、合併でそれを防げるとは思えない。

 ●山崎一雄 京極町長

 これまで道や支庁にかなりの部分頼っていたのは事実だ。さまざまなことで指導も受け、依存もしていたと思う。そういう中で道が示した、羊蹄山ろく7町村をひとつにして人口38,000人という案は、面積で香川県に匹敵する規模になる。これで果たしてで効率的行政運営ができるのか。

 ●逢坂誠二 ニセコ町長

 「合併しさえすれば」ではなく、合併しても相当な努力が必要だと感じた。ただ現在の町に対する愛着についてはどうなのか。情緒的な取るにたらないことなのか。また、合併の前に町村の財政的な力を向上させるという考えはないのか。

 ●「市町村が頑張るしかない」 高島室長

 ▼合併しない場合については、私たちも考えた。ただ、誰に頑張ってもらわなければいけないかというと、やはり市町村ということになる。これからは、小規模町村では、なかなか責任を果たせないだろう。とにかく、同じスタートラインに立ってもらわないと・・・。道がそうした(小規模)町村の事務を代行するという考えがあるが、それは不幸だ。個々の案件に対し、いちいち知事が出向いてくるだろうか。(判断する)首長がいなくなる。首長、議員を残す道を選ぶべきだ。

 ▼少子高齢化は、合併だけでは防げない。では、サービス水準を下げ、税を上げるということがいきなりできるだろうか。少子高齢化は防げないが、行政コストを下げることはできる。(合併は)十分条件ではないが、必要条件だと思う。

 ▼香川県規模の市町村は大き過ぎるということだが、香川県が県として小さ過ぎる。佐賀県もそうだ。むしろ、もう市町村規模だ。合併して効率的行政ができるか、ということだが、やらねばならない。考えていただきたい。相互扶助は、それぞれが努力したという前提で成り立つ。例えば、地方交付税も国が作っているのではなく、全国民の合意で成り立っている。努力しないで、扶助は受けられない。相互扶助システムに依存するのではなく、自分たちで、どれだけ効率的な行政運営ができるか、やらねばならない時なのだ。

 ▼愛着についてだが、「ふるさと」で役場を思い浮かべる人がいるだろうか。家であり、学校であり、山であり、友人であり・・・。ふるさとをどう残すかということと、市町村の区切りをどうするかは別だ。

 ▼市町村への税源委譲だが、これを先にするにも受け皿、基盤ができていない。ただ、これは必ずやっていく。

 ●伊藤町長

 私は、合併賛成論者だ。あえて言うが、ここにいる3町長で年間約4,000万円、山ろく7町村の首長で1億円くらいになるだろう。3町で議員は4、50人、職員は400人ほど。合併はリストラではないというが、これだけの税金が使われているのだから、合併がリストラにつながることを避けるべきではないと思う。また都道府県はどうするのか。「中2階」であれば、そんなに税金を使う必要はないだろう。

 ●山崎町長

 交付税がどう落ち着いていくのか、それがかぎだ。それによって住民とどう対峙していくかということになる。

 ●「交付税は改革する」 高島室長

 ▼交付税は改革する。できるだけ住民本位のものにする。税源を地方に委譲して、限定的に残った分の交付税は、「何となく」という運営のところに配分はない。総額が減り配分も変わる。

 ●逢坂町長

 手厚い合併支援は財政削減の流れと矛盾するのでは。また期限の平成17年3月の延長はあり得るのか。

 ●「特例期限の延長はない」 高島室長

 ▼合併で市町村規模が大きくなることで、自治体のコストが大きく削減され、合併特例債を上回る効果が出る。それも単年度だけの効果ではない。だから、言わば「大盤振る舞い」になっている。そういう枠組みは単純に延長などできない。期限の延長はないのだから、今使ってくださいと言っている。合併の優遇措置は完全に保証する。

 ▼また、都道府県(の改革)を先にという論議もあるが、今、道をなくしたら大変だろう。そのうち、国の持つ、広域行政体にふさわしい業務を道に持っていくし、人材も国から道、道から市町村へという流れができる。

 ▼最後に、合併問題は議論を避けてはいてはいけない。合併さえすれば良くなるのではない。合併と言う手段を利用して、どう飛躍するかだ。ほかに何か方法があるか、と言われても、私どもはお示しできるものはない。合併でサービスが落ちることはない。なぜなら、そういう合併をすればいいのだ。

 

 

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