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1. 基礎的自治体の標準目標は10万人ポスト合併特例法の地方分権の方向を探る地方制度調査会の中間報告を前に、全国市長会は地方自治の将来像に関する提言をまとめました。2002年12月に全市長を対象に行った意識調査に基づき、西尾私案が投げ掛けた基礎的自治体や都道府県の在り方、税財政改革などについて言及しています。 提言は、今後進められる二次、三次の地方分権改革の論議では、地方自治の将来像を常に念頭に置くべき、とした上で、基礎的自治体の標準的な人口規模を「概ね10万人以上」と位置付けています。また、住民自治とコミュニティを重視する視点から、基礎的自治体内部の「地域自治組織」の制度化の必要性を挙げているのが大きな特徴です。 当面の焦点となっている合併特例法に関しては、関係市町村の自主的判断を尊重するとの基本姿勢に立つとともに、判断材料として地方交付税などの地方財政の将来見通しについて明確にすることを求めています。また、離島など合併が困難な市町村に対する特別の措置や、県境を越えた合併などに対する弾力的な対応の必要性も挙げています。 ■都道府県の自主的合併も推進 都道府県の在り方については、青森・岩手・秋田などで議論の高まりを見せているような、広域なブロック単位での再編を目指した検討が必要だとしています。また、市町村合併の進展によって、都道府県が持つ広域・連絡調整・補完の3機能のうち補完機能については縮小の方向にあるとして、都道府県の再編についても自主性を前面に置いた制度改革を求めています。 一方、税財政改革に関しては、住民の受益と負担を明確にするため「まず国から地方への税源移譲を基点とすべきだ」としています。地方交付税制度については、財源保障と財源調整機能は不可欠との考えを改めて示し、算定方法の簡素化に重点を置いた見直しの推進を提言しています。
2. 人口「下限設定」64%の市長が是認全国市長会が市長を対象に行った「地方自治の将来像」に関する意識調査では、回答率が93%に達し、6年前の調査が58%だったのと比べても、関心の高さがうかがえます。 ■小規模都市は「5万人以上」指向 将来の基礎的自治体を考える場合、望ましい人口規模として第1位に挙げられたのが「約10万人規模」で、全体の38%を占めました。これに「約20万人規模」(18%)、「約30万人規模」(15%)が続き、これらを合わせた「10万人以上」は71%にも達しています。逆に、「約5万人規模」は10%、「約3万人規模」は3%と少数派にとどまっています。 ただし、基礎的自治体の標準人口については、現在の自治体の規模によって市長の見方にも微妙な違いがうかがえます。全国に約70ある人口3万人未満の市に限ってみると、基礎的自治体の標準規模を「約10万人規模」とした回答は36%で最多ながら、「約5万人規模」が30%とこれに続き、「約3万人規模」も12%に上っています。現在の人口が3万?5万人の市(全国に約150)の場合も、「約5万人規模」を標準に挙げた市長が17%と多めになっています(グラフ参照)。 特に、現在の人口が3万人未満の小規模都市の場合は、合併による人口規模の大型化を必ずしも求めていないが、それでも「5万人以上は必要」と判断している傾向がうかがえます。 ■人口規模による一律方式に異論も また、全回答で16%を占めている「その他」の中には、「一律に人口規模だけで基礎的自治体を決められない」とする考えが多く見られます。このため、「最低でも5万人以上、標準的には10万人」という考え方をベースにしながらも、基礎的自治体の条件整備と多様性との関係をどう調整していくかが、今後の議論の焦点となりそうです。 全国市長会の提言でも、「当面は規模の異なる基礎的自治体の規模・能力・意欲に応じて事務事業の移譲を進めるとともに、広域連合の活用や自主的な合併などによって、分権の担い手としての都市の実力を育てることが重要だ」としています。西尾私案が発端となって議論が広がった、基礎的自治体の人口規模の下限設定についても、市長の64%が是認していますが、提言ではこの点に触れず、慎重な姿勢をのぞかせました。
3. 「住民自治組織」の制度化へ市長の意識調査では、基礎自治体の人口規模の下限設定について64%が是認し、その内訳は円グラフのようになっています。「5万人」が最も多いが、「1万人」がこれに続き、「10万人」「3万人」とほぼ分け合う結果になっています。 ■市長の63%が必要論 基礎的自治体の区域内に近隣政府や自治組織を制度化することについては、回答した市長の63%が選択制を含めて何らかの形で実現の必要性を認めました(不要論は、27%)。このうち最も多かったのは、「基礎的自治体の判断で必要に応じて自治組織を設置できることとする」というもので、全体の38%に達しました。さらに自治組織を制度化した上で「自治組織の意見を基礎自治体の運営に反映させる」が14%、同時に「基礎自治体の事務の一部を自治組織が処理する」が12%を占めました。 全国市長会の提言においても、これらの考えを背景に、下のように地域自治組織の形態を4つに類型化しています。 ■多様性・選択性を広く認める Aの「諮問機関型」は、現行制度では合併後に任意で設置が認められ、市町村計画の執行や変更などに関して首長に意見を述べることができる「地域審議会」と同様の形態を指しています。Bの「議決機関型」とともに、基礎的自治体の支所・出張所と連携する地域内分権の考え方が基盤になっていると思われます。 また、Cの「近隣委員会型」は、英国のパリッシュ議会的な形態で、住民の直接選挙による委員会が一定の議決権を持つほか、地域の公民館やスポーツ施設の運営、福祉サービスなどを自主的に行う機能も認めようというものです。Dの「特別地方公共団体型」は、議会機能と執行機能を並立させたもので、提言・実践首長会の新自治体構想に近い形態(本誌116号参照)。 課税権などの問題にまでは踏み込んでいませんが、提言にもあるように、全国一律・画一的な制度とするのではなく、地域住民のイニシャティブを尊重した多様性・選択性のある制度として具体化していくこことが、今後の検討課題となるでしょう。
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