行政評価・入門編

 1.住民満足度を指標でチェックする

 米国西海岸オレゴン州のムルトマ郡では、行政サービスに対する住民の満足度を測る目安として七十六項目の指標を選定し、コミュニティの状況を把握しながら、より高い水準のサービスと効率性を実現しています。これらの指標は、「経済」「教育」「児童と家庭」「生活の質」「自治」「公共の安全」という大きく六つの分野に区分されています。

 それぞれの指標に基づき指標の変化、進行具合が数値で整理され、民間人を中心に組織する評議員会により「ベンチマーク・リスト」という形で報告されます。「ベンチマーク」とは元々、土地の測裏する際の基準のことを指しています。これになぞらえて、状況の変化を見ようと言うことです。

 たとえば「生活の質」に関しては、「家と職場の間を三十分間未満で通勤できる住民の割合」「住宅費の負担が所得の三〇%以下の世帯の割合」「街の落書きの数」といった指標が並びます。数値目標を設定して、数値の変化からコミュニティの状態を監視し、地域間の比較と併せて変化の原因を分析し、より有効な改善策を打っていくという手法です。

 ■何をしたかより成果重視

 ムルトマ郡のベンチマーク方式の最大の特徴は、行政がいろいろな施策や事業を展開した結果、住民の生活が実際にはどう変わったのか、どれほど満足できる状態になっているか、という「成果」に重点を置いていることです。

 住宅費の問題を例に取ると、従来型の行政では、「低所得者向けの公営住宅を○○戸建設した」とか「その費用は○○億円に上った。前年度より増やした」といった評価にとどまりがちです。住宅事情の改善についての住民に対する説明も、建設予算額や戸数の推移でしか行われていないのが実態です。

 ■住民に単純明快な説明

 これに対して、住民の住宅費負担がどの程度軽減されたか、住環境に関する満足感がどの程度得られたかを重視する考え方です。行政サービスを提供する側ではなく、受け手の側に身を置いての「成果主義」といえるでしょう。

 もう一つの特徴は、指標や目標が非常にわかりやすく設定されていることです。住民の満足度という「ものさし」を使っていることの結果でもありますが、「わかりやすさ」が住民参加を促す大きな要因となっていることは見逃せません。

 たとえば「家と職場の間を三十分間未満で通勤できる住民の割合の増加させる」という指標では、平均通勤時間の推移や他地域の状況などが明解な記述とグラフで表現されています。さらに、ベンチマークの基準を維持することが「なぜ重要か」については「長い通勤は、環境汚染、交通渋滞など生活の質すべてに影響する。コミュニティには適切な居住と仕事と交通システムが配置されなければならない」と説明しています。

 ムルトマ郡のベンチマーク・リストは、行政の舵取りの方向を職員に対しても住民に対しても明確に示しているわけです。日本でも最近、住民に対し行政の実態を明らかにするという説明責任「アカウンタビリティ」の重要性が叫ばれるようになってきましたが、ベンチマークリストは、この課題を極めて単純明快に実現しています。