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米国の場合米国における市民参加は、政治・行政への市民参加とともに、さまざまな市民組織・民間機関の公共的な活動への参加があり、地域の制約を超えて目的ごとに組織化された市民団体なども数多くあります。 ■囲い込みの一方、参加の仕組み充実「コミュニティへの分権」は80年代のレーガン政権下で強く打ち出されましたが、その背景には、政府の福祉政策への依存排除と自助精神の高揚を図ろうという狙いがありました。市民参加による都市の再生が試みられる一方で、大都市部では「ゲート・コミュニティ」と呼ばれる地域エゴ的な思考による「囲い込み現象」も起きてきました。 また、オレゴン州ポートランド市やアラバマ州バーミングハム市などでは、ネイバーフッド組織と自治体政府との協働を軸とした市民参加型のまちづくりも発展していきました。市民参加の仕組みが、市民同士の結束を強めるという効果さえ上げているそうです。 人口約37万人のペンシルバニア州ピッツバーグ市の場合は、一定のエリアを舞台にした市民活動は、ネイバーフッド組織やコミュニティグループなどと呼ばれる市民団体を通じて行われています。そうした市民組織は88あり、地域によってはそれぞれの組織の下にブロック・クラブやブロック・アソシエーションと呼ばれる街区単位の最小の住民組織もあります。 ■コミュニティ開発、雇用創出事業もネイバーフッド組織の多くは、複数が寄り集まって、広域的なブロック組織を構成しています。広域ブロック内には、一つまたは複数のネイバーフッド組織の連合体が形成され、エリア内の生活環境の改善や治安維持、経済活性化や雇用拡大を目指した取り組みも行われています。 ピッツバーグ市のネイバーフッド組織の最大の特徴は、必要に応じて法人格を持つことができ、非営利の公共事業サービスを提供する限りは連邦政府から非課税措置を受けることができる点にあります。寄付収入や独自の事業収入が免税となるメリットは大きく、非営利・非課税法人となった組織は、美化・防犯事業にとどまらず、コミュニティの開発に関連した計画策定や雇用創出事業、障害者に対する公共的なサービスの提供なども積極的に展開しています。 ネイバーフッド組織、ブロック・クラブとも、地域住民の参加はそれぞれの自由で、会費を徴収するケースも少ない。活動資金は、地域内の企業や篤志家の寄付、事業収入と行政サイドからの交付金で賄われています。 意思決定機関の近隣協議会は、住民の互選でメンバーを選出し、市の委員会や公聴会への参加を通じて提案や主張を行うことが認められています。日常的な事務としては、住宅・コミュニティ改善事業への市民参加の奨励や、地区住民に対する情報提供なども含まれています。 インドネシアの場合インドネシアの近隣組織は、近隣数十世帯が集まって形成される「ルクン・トゥタンガ(RT)」と、これらが複数集まった連合体の「ルクン・ワルガ(RW)」からなり、「RT/RW制度」と呼ばれています。 ■日本支配下の「トナリグミ」に端RT/RWに関する法制度は1987年に整備されましたが、RTの起源は1940年代の日本占領下にまでさかのぼるそうです。「トナリグミ(隣組)」「アザ・ジョウカイ(字常会)」の名でジャワ島に制度化されたのが発端で、70年代からはこれらを基盤に政府の監督下で活発な活動が展開されていたのです。 RT/RWは、伝統的な相互扶助の精神に基づいて、行政や開発プログラムの推進を補佐するのを目的に、政府によって育成されるとされています。特に、その役割は、立ち遅れていた福祉の分野で期待されていたようです。 RTの単位は、農村部で最多30世帯、都市部で50世帯が目安で、住民自身が設立するものとされています。ただし、行政機関の末端にある行政区長らに相談することが必要で、決定事項も町村長の承認が必要であることから、行政主導の下で組織された自治組織といえそうです。 ■会議は「全会一致」が原則
RT/RWの役割もまた、行政補完的なものが中心。例えば、予防接種や家族計画普及のためのキャンペーン、防犯、ごみの収集、道路補修、貧困家庭への財政援助などに関わる業務で、行政で手の回らない部分を肩代わりしているといって良さそうです。 RTの役員は住民の投票で選出され、RWの役員は各RTの代表らによって選ばれますが、証明書発行などの手数料収入があるだけで無給。RTは、連絡・調整と同時に決定・実施の役割も持ち、定期的に会議が開催されます。最終決定は「全会一致」が原則で、合意が成立するまで話し合いを重ねることが、対立を避けるための知恵として、伝統的に受け継がれてきたそうです。 行政とRT/RWの関係は「郡長、町村長はRT/RWに対して最大の効力と成果を生み出すよう指導を行う」と定められているように、行政が上位に位置付けられています。 RT/RWが行政の肩代わり的な業務を担っているにもかかわらず、行政からは金銭的な補助は何もありません。財源は全てRT/RW自身で賄うことが明記され、課税などもありませんから、会費収入が公的活動費や援助金、冠婚葬祭の見舞金などに充てられています。緊急時に多額な資金が必要となった場合は、寄付金が頼りとなるようです。 このように、インドネシアの近隣自治(隣保制度)は、これまでの事例に比べると特異な存在ですが、近隣政府の下部的な組織として、住民相互の関係や世帯規模が参考になりそうです。
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