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スウェーデンの場合英国のパリッシュが伝統的な教区をベースとしたものが多いのに対して、スウェーデンでは市町村合併が近隣政府(ネバーフッドガバメント)の創設と深く関わっているのが特徴です。 スウェーデンもまたかつては教区を基にして社会福祉と貧窮者の扶助を中心とした自治的な活動が行われてきました。1862年に課税権などを明確にした地方自治体制が整備された段階では、これら教区をベースとした地方自治体は約2500にも上りました。しかし、特に農村部では人口千人に満たない自治体も多く、これら小規模自治体では十分な行政を行えないという問題が表面化し、1946年には最低2000人を基準に再編が行われ、1952年には1006にまで自治体数が減少しました。 ■広域化で自治体と住民に距離感さらに第2波の合併政策が採られ、1974年には278となりました。その後、一時は合併したものの再分裂するケースもあり、現在の基礎自治体数は284となっています。全人口が約890万人ですから、1自治体の平均人口は約3万人(日本は約3万8000人)となります。 明治、昭和と2つの大合併を経て基礎自治体の数を約7万2000から4千以下に減らした日本と似たような経過をたどりました。平均人口も現在の日本とほぼ同水準ですが、スウェーデンの1自治体当たりの平均面積は約1580平方kmで、日本(約116平方km)の10倍以上もあります。このため、日本の市町村に相当するコミューン自体の自治能力は高まったものの、行政と住民の距離がそれまでに比べて大きく遠のいてしまいました。 そこで1979年にコミューン補完法が制定され、地域の問題をできるだけ地域の実情に合った形で解決するために一定の権限をコミューンから委譲された近隣政府を設置することが可能となりました。 ■福祉・教育・文化のソフト部門担当1979年の法制定時には3つのコミューンで近隣政府が設置され、83年には50に拡大しました。途中、廃止されるケースもいくつかありましたが、93年には140にまで増えました。 近隣政府が所管するのは、社会福祉、教育、文化などソフト分野が主体で、社会福祉を例に挙げると、デイケアセンターやホームヘルプ、特別老人ホームの運営などが、近隣政府に任されます。また、教育・文化の分野では、スポーツ施設や図書館の運営、青少年活動などがあります。英国のパリッシュでは地域が影響を受ける開発計画に関しては近隣政府に実質的な許諾権が与えられていますが、スウェーデンの近隣政府は、土地利用や環境問題に関するコミューンの意思決定に対して諮問委員会的な機能を果たすそうです。 近隣政府の設置自体はコミューンに決定権がありますが、近隣政府の議員は直接選挙で選任される場合と、上部機関から任命される場合があります。 このように、スウェーデンでは、合併による基礎自治体の規模拡大・広域化に続いて、地域単位に住民に参加の機会と自治の権限を与える近隣政府が整備されていきました。経費の増大や意思決定に時間がかかりすぎる、効率性が落ちると行った、「合併効果」と相反する問題も指摘されていますが、小規模自治体の自治の在り方を考える上で、日本でも参考になりそうです。 ドイツの場合16の州で構成される連邦制国家のドイツでは、地方自治法もそれぞれの州が独自に持っています。したがって、基礎自治体や近隣政府はさまざまな形があるとされています。 ■3.5万〜5.5万人が目安近隣政府は一般には「自治体内下位区分」と呼ばれ、スウェーデンと同様に、市町村合併がひとつのきっかけとなっています。多くの州では大都市など一定規模以上の自治体に限って設置を義務付けており、郡部の小規模な地域社会を単位とした英国のパリッシュやスウェーデンの近隣政府とはやや趣を異にしています。 人口が集中しているノルトライン・ウエストファーレン州の場合は、39の都市のうち26の都市が近隣政府を持っています。近隣政府は、住民と市役所、市議会の距離が遠くなるに従って、適正な規模にいろいろの権限を降ろしていくという考えに基づいているからです。 日本都市センター・市民自治研究委員会の報告によると、ノルトライン・ウエストファーレン州にあるドルトムント市は人口約60万人、面積約280平方kmで、熊本市や新潟市、静岡県浜松市などとほぼ似た規模。州の地方自治法、市の基本条例に基づき、12の区を設置しています。これら都市区は、それぞれひとつの地域的なまとまりを持つことが条件とされているため、人口規模も3万5000人から5万5000人に平準化されています。他都市の区人口もほぼ同様であり、この規模が住民意思を反映させる上での一つの目安となっているようです。 ■広い公共分野について決議権近隣政府の意思決定機関である区代表会は、定数19で直接選挙で構成員が選出されます。代表会の任務・権限は、市議会の専管事項を除いて「全市的な利害を尊重しつつ、市議会が発した一般的な要綱の枠内で、その重要性が著しく都市区の範囲を超えない事項すべての決定」とされています。具体的内容として次のような事項が例示されています。
地域の決定事項は、いわば「地域の総意」として一定の重みを有しますが、基本的には「全市的な利害」の下の制約があるようです。また、区代表会は英国のパリッシュ議会などと異なり、課税権を持っているわけではありません。業務の執行権がないため、近隣政府というよりは住民による「近隣自治組織」というべきかも知れません。しかし、日本における近隣政府を考える上で重要なのは、住民にとって身近な問題については住民自身が総意を表明する機関を持っているということでしょう。 執行機関である区役所は、複数の都市区を管轄することも認められ、ドルトムント市の場合は、都心の3つの区を一つの区役所が所管しています。職員は数十人規模で、区役所長は、区代表会への出席が義務付けられ、市が所長を任命する際には、区代表会の意見を聞くことになっているそうです。
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