市町村合併の論点(9)〜近隣自治を考える5

2002/11/18
(オンラインプレス「NEXT212」101号掲載)

 

 南信州18市町村の近隣政府構想 

 1. 1市に統合し地域内分権を推進

 小規模町村の方向性など分権時代における基礎的自治体の在り方が焦点となるなか、長野県の南信州広域連合が、圏域18市町村の1市統合を想定した新たな住民自治のしくみについての研究報告をまとめました。「地域自治政府」構想など踏み込んだ内容が注目されるので、概要をご紹介します。

 南信州広域連合は、長野県南部の飯田市と3町14村で構成されています。中山間地に広がり、人口千人未満の村を5つ抱えることなどから、99年の設置以来、廃棄物対策や防災、介護などのほか産業振興、自治体間の人事交流など幅広い分野で広域連携を続けています。

 ■「市民自治」と「協働」の視点から

  市町村合併に関しては、これまで具体的な動きはありませんが、広域連合内の「変革期における市町村の在り方研究会」が、飯田市・下伊那郡の「1市統合」を前提とした場合の新たな自治の仕組み、財政見通しなどを分析・研究していました。

  報告書では、「地域の環境や文化を大切にすることを基本に、それらを生かし活力ある地域を目指す」ことを地域の基本的な方向とした上で、次の点を自治体運営の基本に据えました。

  1. 決定は身近で行い、執行は簡素で効率的に行う
  2. 行政のスリム化を図りながら、市民自治を主体とした持続可能な地域づくり(地域経営)へとシフトする
  3. まず住民一人ひとりが、次に家族などの協力で、さらには地域の協力でできることは行い、それでもできない事柄について行政が担う

 ■「地域自治政府」構想を提案

  全国的に行われている合併論議が、行財政の効率性に片寄りがちなのに対し、「市民(住民)自治」の視点を明確にするとともに、住民の自治活動を基本に地域のさまざまなセクターや行政が補う「協働型まちづくり」の方向を示した点が大きな特徴といえそうです。

  また、自治体運営の枠組みについては、圏域全体で約1900平方キロメートルという香川県並みの広大な面積に、約18万人の人口が分散し、多様な文化が存在する地域特性を重視。市役所がまち全体を統合的に運営する現在の自治の仕組みでは対応ができないとして、地域内分権の考えに立った「地域自治政府」という新たな自治の仕組みを提案しています。

 2. 旧町村単位で権限と財源

 南信州広域連合が提唱する「地域自治政府」は、現在の市町村を基盤としたそれぞれの地域ごとに展開される住民の自治活動と基礎自治体との「協働」を基本とし、新たな行政体制の整備を挙げています。

 ■直接選挙の委員会が意思決定

  報告書では、地域自治政府は、概ね旧町村単位で設置し、住民の直接選挙で選出される「地域委員会」が意思決定機関となります。地域委員会は、本庁から権限と財源の委譲を受けて、独自の公共サービスや財産管理のほか、地区計画の策定やまちづくりを担います。

  これは欧米の近隣政府の考え方と重なり合う部分が多いのですが、一定の財源配分を受け、規制行政を除く意思決定機能など地域に関する権限がある程度認められた「マイナー自治体」的な位置付けにあるようです。法人格の取得についても、地方自治法の改正により道を開く考えを示しています。

  地域自治政府を支える行政の組織体制については、市本庁のほか拠点支所、支所、出張所という仕組みを挙げています。このうち拠点支所は、人口規模や地域的・歴史的なまとまりのあるブロック単位で地域ごとに5〜7か所設置し、支所も兼ねます。支所は、概ね現在の町村単位に24〜26か所設置し、公民館を併設します。

 ■支所が端末行政機能

  これらの市の端末行政機関は、市議会で決定された制度や予算に基づく基礎的なサービスを提供する機能と、地域自治政府が決定した事業の執行機能を担います。各地域のきめ細かな公共サービスは地域自治政府が主に担います。したがって、市議会は、「どぶ板」的な細かな施策・事業よりも、まちづくりの本質に関わる政策論議に集中することになるとしています。

  財政見通しでは、特例措置期限内の合併で人員削減や普通建設事業の抑制を前提としても、赤字基調になることは避けられず、特例措置の手厚い向こう10年間に必要な基盤整備を重点的に行い、その後も効率的で効果的な地域経営を行う必要があるとしています。

  さらに、国への要望事項として、地域自治政府設置についての地方自治法上の位置づけと合わせて、面積を考慮した交付税措置の充実などを求める一方、県との役割分担の再構築の必要を挙げています。

 

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