市町村合併の論点(2)〜地方制度調査会の動きから |
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2002/08/05 |
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1. 広がる「道州制・府県合併」論首相の諮問機関・地方制度調査会は、基礎的自治体の在り方に続いて、大都市、都道府県の在り方をどう考えるべきかを、第2の柱に据えています。特に、都道府県の在り方に関しては、都道府県合併や道州制論が論議の焦点となりそうです。 道州制構想に関しては、PHP研究所や日本青年会議所などが90年代後半の地方再編構想の中で相次いで打ち出しました(本誌第29号参照)。これらの問題提起をきっかけに、「地方分権の受け皿」としての議論が展開されましたが、最近は、市町村合併の具体化を背景に、都道府県合併を含めてより踏み込んだ議論が広がりつつあります。 自治体による研究活動も、2001年2月に独自案をまとめた北海道のほか、2002年4月に青森など3県で発足した北東北広域政策研究会などなどのように、近隣県の連携による取り組みも出てきています。また、九州経済連合会は、「九州はひとつ」を原点に、道州制を含めた広域行政のあり方を検討するなど、多角度からの研究の動きも見られます。 また、「受け皿」論にとどまらず、住民生活に直結する基礎自治体を核に、都道府県や国の在り方を見直そうという考え方も、広がりを見せています。
2. 府県の機能見直し、連携・分担道州制をめぐる国レベルの議論としては、地方分権推進委員会が2001年6月に首相に提出した最終報告の中で、都道府県から道州制などへの移行についての検討の必要性を挙げたものの、具体論には踏み込みませんでした。 ■日本に合わない「連邦制型」推進委の提起を受ける形で翌7月にスタートした地方分権改革推進会議で、委員長を務めた諸井虔・太平洋セメント相談役(地方制度調査会会長)は「個人的には、道州制には2種類あると思う。1つは、道や州に相当な権限があり、それらが集まって中央政府をつくるという連邦制型。もう1つは、今の県が合併して拡大していくという型。連邦制は日本に合わないと考えており、県の合併のような道州制が望ましいのではないかと思う」と発言しています。 米国やドイツのように連邦政府と地方政府の間で主権を分割する「連邦制型」は、憲法改正の問題が派生し、単一国家の日本にはふさわしくないとの考え方が、一般化しています。府県における論議も、基礎自治体の機能や規模拡大に伴い府県の機能を見直し、より広域的に連携していく道筋を描いているようです。 ■動き出した「東北連合」秋田、岩手両県とともに北東北広域政策研究会を立ち上げた木村守男・青森県知事は、藩政時代にさかのぼる歴史的経緯や地理的条件などから、「連携に支障の少ない3県合体から、残り3県を加えた東北連合が望ましい」との考えを示しています。研究会では、港湾や道路網の管理・整備、防災など、基礎自治体では担いきれなかったり、より広域のサービスが求められる分野を重点に具体的な検討が行われることになっています。 浅野史郎・宮城県知事も、増田寛也・岩手県知事らと情報交換しながら、東北連合に積極的な姿勢を見せ、「税財源問題も含めた共通課題を中心に連携を深めていきたい」との考えです。 5月に開かれた中国地方知事会議では、広島、岡山など5県の知事が「市町村合併は道州制に向かう」との考えで一致し、県同士のの広域連携の強化を確認し合いました。当面の課題としては、高速通信網を利用した広域の情報ネットワークづくり、各県の試験研究機関や県立大学の共同化などが挙げられています。 国と道州、市町村との役割分担については、住民に身近な行政は市町村、市町村の区域を越えて広域にわたるものは道州に、さらに広域にわたるものは国に、という考えをベースに、今後より具体的な検討が行われることになります。また、国レベルでは地方分権改革推進会議が6月に国と地方の役割分担に関する中間報告をまとめていますが、地方からの提案も期待されます。
3. 「市町村優先」原点に地方再編地方制度調査会は、小規模町村の在り方に関する検討課題の一つに、小規模町村が担い切れない行政を都道府県が引き受ける「垂直補完」と、それ以外の近隣自治体や広域連合などが引き受ける「水平補完」を挙げています(本誌第87号参照)。道州制・府県合併を検討する上でも、こうした「補完」の問題をどう考えるかが、重要になってきます。 地方分権といった場合、国から地方、都道府県から市町村への権限委譲・機能移管が前面に出されがちですが、地方自治の本来の考えに立てば、地域に関わる行政は「地方が主」であり、都道府県や国がこれを補うという関係になるはずです。 ■地方自治法も「補完性の原理」に立つ地方自治法では、「普通地方公共団体は、その公共事務及び法律又はこれに基く政令により普 通地方公共団体に属するものの外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属しないものを処理する」(第2条2項)と定められています。3項には主な事務内容が列挙され、4項と合わせて、基礎的自治体である市町村が一般的に事務を行うこととし、都道府県は広域にわたる連絡調整や市町村が処理するのが適当でない事務を扱うとしています。つまり、原則的には地方公共団体が国や都道府県に優先するという考えに基づいています。 この考え方は、ヨーロッパで地方自治制度の原則として一般化しつつある「補完性の原理」と重なり合うものがあります。国際自治体連合が世界大会で決議した世界地方宣言では「事務事業を政府間で分担するに際しては、まず基礎自治体を最優先し、ついで広域自治体を優先し、国は広域自治体でも担うにふさわしくない事務事業のみを担うものとする」とされています。 ■自己責任に基づき多様性容認の考えも地方自治法は、「補完」という言葉を使っていませんが、「補完性の原理」に重なる考え方が、基本になっていると考えていいでしょう。問題は、市町村によってはその規模や能力などから地域の行政を完全にカバーしきれない場合があることと、財源や手法に制約があることです。この結果、市町村は地域運営の主体ではあるけれど、本来、伴うべき「自己決定・自己責任」の考えが曖昧なままとなっているともいえます。 分権論議の高まりの中で、「補完性の原理」が重視される傾向を見せており、この視点に立った国や都道府県の役割の見直しが、今後の焦点になっていくものと思われます。また、そうした意味でも、国の方針を待つのではなく、地方から具体的な問題提起と提案が示されることが望まれます。 地方制度調査会がまとめた今後の論点では、都道府県再編や道州制の検討や導入に当たっては、全国一律の統一制度や一斉実施が必要かどうかも検討課題に挙げています。そこには、市町村と同様に都道府県の在り方についても、多様性や地方の独自性をある程度認めようとの発想があるためと考えられます。 |
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