212の21世紀〜マチは変われるか

第3部・情報編

 6.合併論議
 地域情報を循環させるシステム/田無・保谷の試みから

 東京都の田無・保谷両市は、九〇年から合併問題が論議のそ上に乗り、九八年に任意の合併協議会が設立され、現在は法定協議会を中心に合併の最終段階を迎えています。

 地方分権の流れの中で市町村合併が大きくクローズアップされています。住民が署名を集めて合併を求める「住民発議」は増加傾向にあるものの、自治省の六月一日現在の集計では八十一件の発議のうち五十八件が合併協議会の設置にまで至りませんでした。協議会が設置されても難航するケースも多く見られます。

 合併は複数の自治体の考えを一致させるだけでも困難な上に、新しいまちづくりの方向を決めるわけですから、住民の意思をどう吸い上げるかが大きなポイントとなります。

 ■デメリットも積極公開

 田無・保谷両市は、徹底した情報提供と住民を検討作業に巻き込むことで、着実に合併への歩みを進めていきました。「お見合い」である以上相手のことを十分理解するのは当然といえば当然のことですが、それぞれの職員の給与水準や公共施設の利用状況、料金など詳細な資料が市民向けに公開されました。合併のメリットだけでなくデメリットについても、その対処策も合わせて積極的に外に出しました。

 まちづくりを考えるための情報が豊富ですから、市民参加によるフォーラムや勉強会も活発に開かれました。フォーラムは決して行政による市民への説明会ではなく、市民同士の対話と意見集約の場となっていきました。出席できない市民に対しては、両市の広報紙の「合併版」やインターネットなどを通じて詳細な情報や中間報告が提供されています。

 この結果、新市の将来構想には、シルバー人材の専門家登録制度や各駅に隣接した子育てサポートセンターの創設、市内循環のコミュニティバスの運行など市民の目線に立ったアイデアや提言が反映されています。田無・保谷のケースは、行政や住民に関する情報が地域の中でうまく循環し、単なるお知らせやデータにとどまることなく、まちづくりの知恵や力に発展している事例ともいえます。

 ■知恵と力に昇華させる

 一般に行政に関する情報は、広報紙や新聞などを通じて行政が発信し、住民が受信するという形を取ります。行政情報の量と質を高めて行くことにより、住民の間ではその情報の背景にある行政サービスとか政策を評価することが可能になります。たとえばほかのまちとの比較情報を加えるだけでも、住民の受け止め方はずいぶんと違ってきます。

 「住民参加の階段」に従うと、「知る」「考える」から「要求(提案・注文)する」段階にステップアップするわけです。これらの「住民情報」をキャッチすることで、行政は政策や事業が住民にどう受け止められているか、どんな成果を上げているかを知ることができます。この住民情報の活用を体系化し総合的に行おうとするのが、「行政評価」にほかなりません。

 評価に基づき政策・事業の点検や見直しが行われ、新たな政策・事業方針を加えた行政情報が住民に向けて発信されることになります。こうした地域情報の流れを示したのが「地域情報サイクルの概念図」です。行政情報、住民情報が地域の中できちんと循環することが、まちづくりのベースになるといえます。

 住民の意思を行政に反映し、効率的で効果的な行政改革を進める上では、地域情報サイクルをしっかり根付かせるための仕組みづくりが求められています。