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1. 分権と並行し、経済基盤を強化地方の自立と自己責任が求められる中、関西経済連合会(関経連)は、地方分権改革のモデルとなる「関西州構想」を打ち出しました。広域連合の発展形として税源問題にも踏み込んでいるほか、自由経済圏としての関西の産業基盤の底上げを狙った民間からの提起である点が注目されます。 ■9府県連合で地盤沈下くい止める 構想は、近畿地方の2府4県に三重、福井、徳島県を加えた9府県で広域連合を組み、広域的なインフラ整備や産業政策を担う「関西州」を設置することを骨子としています。関経連行政改革委員会(委員長・井上義國ダイキン工業顧問)が提案内容を報告書としてまとめ、2月初め、関係自治体と小泉首相に送付しました。 「関西州構想」の起点となったのは、財政破綻の瀬戸際に追い込まれている大阪府をはじめとした関西圏自治体の危機的状況を背景に、関西経済の地盤沈下が大きな要素となっています。また、中央集権的な構造を維持したまま、都市間・地域間競争が激しくなったことで、インフラ整備や産業政策が逆に散漫・非効率になっている現実も、地方自治・行政の枠組みに踏み込む要因となったようです。 例えば、空港整備の面では、関西空港の赤字体質が解消されない状況下で、神戸空港はじめ上琵琶、播磨空港などの整備計画が進行していることが挙げられます。個別には地域の公共事業として経済効果を一定程度もたらしたとしても、効率性や総合性という視点から長期的・マクロに見たときに、危機感を抱かざるを得ないということです。 ■経済界の行動計画とも連携 関経連の問題提起は、地方分権時代に対応して、中央集権解体の受け皿となる地方自治政府をしっかり築き上げると同時に、経済界としても総合力を発揮していくことを自らの課題としている点に、特徴があるといえます。その意味では、「関西州創設に向けた合意形成」と併せて「人間共生型ロボット産業の拠点形成」「観光プロモーション組織の司令塔づくり」などを重点課題に挙げる関経連の行動計画にも目を向けることが必要でしょう。 関経連の提起に対して、国松善次・滋賀県知事は、「市町村合併がある程度進めば、都道府県の役割も整理が必要になる。面白い提案であり、勉強していきたい」と感想をもらし、今後の行政と経済界との議論の行方も注目されます。また、北海道や東北、九州などで検討されている道州制構想にも一石を投じる内容で、これらの議論がクロスオーバー的に発展することも期待したいところです。 2. 広域連合制活用し、総合力を発揮「関西州構想」は、「世界に冠たる自由経済圏・関西」の形成を目指すという戦略目標に立って、次のような具体的なイメージを示しています。
そこには、歴史的に培ってきた地域の多様性を生かしながら、同時に広域的な連携により総合性と効率性を追求しようという発想が込められています。このため、中央集権のくびきを解き放った後の新しい地方制度については、「柔軟で融通の利く」しくみと多様な選択肢を求めています。 ■単一「道州制」ではなく、多様性重視 具体的な制度としては、▽「共同体(郡)制度」の創設による基礎自治体の強化▽広域行政を可能にする「州制度」の創設▽基礎自治体と広域自治体との事務分配の自由化〜を挙げています。 このうち「共同体制度」は、行財政の効率化などの点で合併と同様の効果を発揮しつつ、既存の小規模市町村の特性も生かしていける道を開くもので、北海道町村会の提起した「連合自治体制度」(本誌第110号参照)に近い考え方のようです。現行の広域連合との大きな違いは、共同体(郡)が独自の課税権を持つことです。 「州制度」は、都道府県レベルの広域行政に関する地域の多様なニーズに対応することを主眼としています。そのパターンは、現行の都道府県と併存する形も含めて、「府県連合型」「府県特別区型」「府県行政区型」「府県合併型」の4つを用意するとしています(図2参照)。現行の都道府県制を廃止し全国一律の「道州制」に移行するのではなく、自治の形の多様性を認めている点に特徴があるようです。 ■2004年度合意形成目指す その上で、「関西州」については、基礎自治体の強化と自己決定権の拡大を図りながら、関西の総合力を発揮する、効率的で小さな政府を目指しています。現行の広域連合制度を活用し、担当分野は地域発展政策と広域基盤整備に関する事務が主体で、直接選挙で執行機関の長である「関西州知事」を選びます。議会議員は100名程度を定数とし、構成自治体が法人関係の税収のうちから拠出する分賦金を財源とする計画です。 特に、関西州実現は「中央集権打破の突破口」と位置付けて、関係自治体などの合意形成を働きかけ、2004年度中に基本合意に達したいと考えているそうです。 3. 交付税廃止し、財政を水平調整関経連は、「関西州構想」の中で、国と地方の役割分担と併せて、税源移譲と財政調整制度の改革についても、問題提起しています。 国の役割については、補完性の原理に基づいて、「地方でできることは、地方に任せる」という考えを徹底すべきだとしています。つまり、国の役割をできるだけ限定する一方で、地方が行う事務事業に関する規制を緩和・撤廃すると同時に、地方においても「民間でできることは民間で」という考えに立って、地方の事務事業を見直すこととしています。 ■自己決定・自己責任の体制確立 制度改革のもう一本の柱となるのが、税源移譲と財政調整制度の抜本改革で、地方財政を自立させ自己決定・自己責任の体制確立を挙げています。その具体策としては、次のような項目を掲げました。
地方交付税制度の廃止と税源移譲に当たっては、地方税の基幹的な税目のうち都道府県民税、事業税、地方消費税、市町村民税を増税する一方で、これに見合う国税として所得税、法人税、消費税の減税を行うこととしています。また、地方交付税制度に代わる財政調整制度として、激変緩和措置を取りながら、1人当たりの税収の格差を自治体間で水平的に調整する新制度の創設を提起しています。 地方分権の流れの中で、財政的な自立が具体的なテーマとなってきているだけに、関経連の提起を機に、住民、民間を含めた議論の広がりが期待されます。 |
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