続・市町村合併の論点4
単独自立の道

2003/01/27
(オンラインプレス「NEXT212」109号掲載)

 

 1. 馬路村の場合 

 「昭和の大合併」選択の明暗教訓に

 高知県東部の馬路(うまじ)村(人口約1300人)の議会は1月22日、議員提案による「自立の村づくり宣言」を全会一致で決議、上治(かみじ)堂司村長も合併に頼らず、単独自立の道を進む方針を明らかにしました。12月のアンケート調査でも、住民の57%が合併に「NO」と答えました。

 ■合併組の衰退を間近に目撃

 多くの住民の思いは、宣言にあるように「合併によって地域間格差が拡大し、過疎化がいっそう進行する」という懸念に起因しています。昭和の大合併を経験した世代では、とりわけ拒絶感が強いようです。

 1954(昭和29)年、安芸市周辺の町村では同市との合併をめぐる大騒動が巻き起こりました。賛否両論が激突した馬路村が合併を思いとどまったのに対して、7村が合併の道を選択しました。それから半世紀近い時間の流れの中で、馬路村の住民は、合併を選んだ村が急速に衰退していく様を間近に見てきました。

 特に、旧・畑山村と旧・東川村地区では、人口が5分の1に減少(減少率約82%)、学校は次々と廃校に追い込まれました。通学にも不便な中山間地であることから、今では「児童ゼロ」の地域になっています。

 ■住民結束し、産業振興に賭ける

 似たような地理的条件の馬路村もまた、過疎の波に直面したものの、人口減少率は約56%にとどまり、合併組との間で明暗が分かれました。96%が山林という自然環境を生かし、農協や森林組合などと行政が一体となって進めてきた産業振興策「ゆずの里づくり」や山村留学などの取り組みが、一定の成果を挙げたためと考えられます。

 しかし、単独自立の道も平坦でないことを、馬路の住民は知っています。過疎進行の基本構図は変わらず、交付税削減などで村の財政に好転など見込めないからです。経常収支比率が85%(2000年度決算)にも達していることから、当面は人件費などの切り詰めでしのぎながら、産業振興に力を注ぐ方針です。

 将来への不安を勇気と元気に変えていくためにも、住民の結束は欠かせないと考える上治村長は、住民参加型の行政を、産業振興と並べて重要課題に掲げています。  

 2. 境港市の場合 

 存続のため「痛み」じっと我慢

 三方を海に囲まれた鳥取県境港市は、古くから漁港として栄え、現在は環日本海交流の拠点都市としての発展を目指しています。そうした地理的な環境から、米子市など周辺市町村の合併問題にも影響を及ぼす自治体として動向が注目されていました。

 黒見哲夫市長は、周辺自治体との合併協議に参加する中で住民に情報を提供しながら検討を深め、最終判断をしたいとのスタンスで臨んできました。これに対し、市議会は12月定例会で、「単独市存続」決議案を12対5の賛成多数で可決しました。

 ■議会決議を市長が追認

 議会決議を受けて、合併による20万人特例市に生き残りの道を模索しようとしていた黒見市長も、「単独市存続」の方針を表明しました。市長としての決断に際しては、必ずしも住民に見える議論が尽くされなかったことを「心残り」としながらも、住民の代表である議会の意思を尊重する考えを示しました。 議会、市長の態度表明に対し、米子市との合併協設置を求める住民発議が出されました。また、2002年7月に市がまとめた「単独市存続」を想定した財政シミュレーションは、極めて厳しい見通しとなっており、生き残りを探る議論はこれからともいえそうです。

 シミュレーションでは、現行のまま推移した場合、2006年度で基金をすべて取り崩し、2007年度以降は赤字が拡大する一方で、2011年度までに約47億円の財源不足が生じると推計されます。その背景には、交付税、税収減や福祉など新たな行政需要の増加のほか、震災復興による借入金や下水道事業の負担増など市独自の財政事情も抱えているからです。

 ■事業先送り・料金引き上げ…

 対応策としては、行政サービスや事業、人件費の大幅削減と、市税など住民負担の見直しが避けられないとしています。具体案には、下水道使用料の50%引き上げ、校舎改築や市道整備の先送りなど市民生活を直撃するものも少なくありません。

 これらの手を講じることで2011年度までに約44億円の改善効果があるものの、厳しい状況が好転するわけではありません。「じっと耐えるだけで果たして良いのか」。「単独」の道を決断してもなお、市長は20年、30年後のまちの姿を明確に見出せないもどかしさを感じているようです。

 3. 上市町/早川町/岩出町の場合 

 独自課税や自治組織などを模索

 2005年3月の特例措置期限をにらんで全国的に合併の動きが加速する中、馬路村や境港市のように「単独」による生き残りの道を目指す自治体も出てきました。

 ■借金償還ヤマ越え、住民自治に自信

 富山県中央にある上市町の伊東尚志町長は1月20日、議会に対して合併しない方針を明らかにしました。周辺市町村の動向や国の地方交付税に対する考え方などを考慮した上で、「町単独でも自立的な存続は可能」と判断したのが、理由だそうです。これに対して、議会内部には賛否両論が出され、上市町としての最終的な結論は、3月議会までに出すこととしました。

 町長の単独方針の背景には、地方自治の方向性や都市と町村の在り方がなお不確定な中で「合併を急がねばならない状況ではない」との判断があったからのようです。また、約2万4千人の人口を抱え、地方債償還の山を概ね越えるなど比較的堅実な財政状況にあることや、町内116の自治組織がそれぞれ住民自治を実践してきた積み重ねも、単独に賭ける自信の裏付けとなっていると思われます。

 ■「上流資源」元に独自の財源確保へ

 日本上流圏文化研究で知られる山梨県早川町は、昭和の大合併で6村がまとまったため面積約370?と県内で最も大きい。高齢化率は47.2%に達し、「合併は地域崩壊に直結する」という理由から辻一幸町長は、2002年3月議会で早々と「単独で歩む」決意を表明。行財政改革と同時に「町が持っている可能性を最大限に引き出す」ことを目標に、2003年度からスタートする新長期計画づくりを進めています。

 財政対策としては、自主財源の確保に重点を置き、この1月には有識者らを交えた「財政確立調査研究会」を設置、町の面積の約80%を占める森林や、早川水系の水、砂利など上流域の資源の活用に関する独自課税の道を探ることにしました。9月までには、早川町独自の財政システムをまとめる計画で、その成果が注目されます。

 ■人口増で単独市制移行目指す

 和歌山県和歌山市のベッドタウンとして約4万9千人の人口を抱える岩出町の場合は、近隣町村との合併であれば特例措置によってすぐにでも市昇格が可能です。しかし、特例に頼らなくとも2005年の国勢調査では人口が5万人に達すると見込み、単独での市制移行を目指しています。

 一方、住民は2002年12月、周辺5町との合併協設置を求める住民発議を提出、「単独」の行方はなお不透明な情勢です。

 
 

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