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1. 町村維持し、スーパー広域連合北海道内の178町村で構成する北海道町村会と町村議会議長会は、特に小規模町村の行財政基盤を強化する手法の一つとして「連合自治体制度」の創設を提言しています。 ■再編へソフトランディング 連合自治体は、現在の町村の自主性を保持しながら、市町村の広域連携によって行政サービスの充実と効率化を図るのが目的です。現在進められている市町村合併が自治体再編のハードランディングとすれば、広域行政の拡充をステップに新たな市町村の在り方を探るソフトランディングを目指しているのが特徴です。 「連合自治体」構想の背景には、北海道の市町村が他府県に比べて行政面積が広大で、全国一律の基準に添った合併ではきめ細かな行政サービスが行き届かず、周辺部の過疎化に拍車がかかりかねないとの懸念があるからです。1町村当たりの比較では、平均面積が北海道(約363平方キロメートル)が全国平均(約104平方キロメートル)の3.5倍。人口は全国が約1万700人に対して北海道は約7300人で、人口密度では5倍もの開きがあります。 また、北海道では人口1万人未満の市町村が全体の約69.8%を占めており、小規模自治体の根本的な見直しを挙げた西尾私案に対する危機感も強く、多様な自治体の在り方の選択肢の一つとして「連合自治体」構想を打ち出しました。 ■構成市町村は身近な事務事業に絞る 連合自治体は、複数の市町村で構成する特別地方公共団体と位置付け、介護保険に関する事務事業などで活用されている広域連合に準じた性格を持っています。組織は連合長と数名の副連合長を置き、議会議員は構成市町村の議員から選出、職員は構成市町村から派遣されます。 取り扱う事務事業は「広域的且つ効率的・効果的に行政運営を行うため、構成市町村に共通する事務事業全般にわたる計画・立案及び管理運営事項」としています。その財源は、構成市町村の負担や国などからの補助金で賄うとしています。 一方、構成市町村の事務事業は、連合自治体で扱う事項以外で、より住民に身近なもの。首長と議会議員は、市町村の区域内の住民が選挙で選出するとしており、概ね現在の市町村の体制をベースにしています。ただし、議員定数については、構成市町村の議員総数を連合自治体の区域内の人口を基にした定数の範囲内に収めるため、現行の定数よりはかなり少なくなると考えられます。 北海道町村会などは、連合自治体制度の創設と併せて、合併特例法関連の支援策を連合自治体にも適用したり、地方交付税の算定でも特段の支援策を講じるよう求めています。 2. 「寄り合い所帯」克服がカギ「連合自治体」構想は、今後の自治体の在り方について「多様性」と「選択性」を求める点で西尾私案と重なり合う部分があります。北海道の特殊な地域事情を踏まえながら、第3の方向を示した点で評価できます。 ■教育、環境、福祉・医療は連合自治体に 構成市町村が一定の権限と財源を持つ点で長野県・南信州広域連合の「地域自治政府」構想とも似ています。しかし、南信州が連合体から旧市町村への地域内分権の考え方を明確にしたのに対し、連合自治体構想では構成市町村の権限・機能が基本となっている点でやや性格が異なっています。 これは連合自治体を普通地方公共団体(都道府県・市町村)ではなく、特別地方公共団体と位置付けている点に表れていますが、いきなり合併ではなく「ソフトランディング」に主眼を置いたためだろうと思われます。 構想の中で、連合自治体と構成市町村が担う事務事業の例として、別表の内容が挙げられています。連合自治体の事業例を見ると、事業内容が同質で効率性が期待できるなど広域連携にメリットのあるものが主体で、概ね現在の広域連合が扱っている項目と重なり合ってます。その中で特徴的なのは、各種行政委員会を加えている点で、特に教育の分野で広域行政を目指しているのが目に付きます。 一方、構成市町村の事務事業例では、窓口業務やコミュニティ施設の運営、中心市街地の活性化施策など住民に身近なものとともに、保健・福祉・医療や産業振興などの分野での独自の施策を挙げています。 ■利害調整、意思決定に弱点? 事務事業の分担について、構想では、その範囲をどう定めるかは、連合自治体の決め方いかんによるとしています。多様性・選択性を尊重しながら、行財政の効率化と住民自治の推進を目指すという考えに基づくもので、結果的に総合的な権限・機能を連合自治体に委ねるなど、南信州の地域自治政府構想や通常の広域合併に近い形態も想定しているようです。 ただし、連合自治体が特別地方公共団としての性格を持つ以上、構成市町村との機能分担や住民意思の反映などの面で課題も多そうです。 介護保険など単一の事業に絞ったものに比べて、広範囲にわたる事業を担った広域連合の例では、住民の帰属意識がなかなか高まらず、構成市町村の間の利害調整に時間を費やすことが多いといった問題が生じています。トップの政治判断とリーダーシップで動きにくいなど「寄り合い所帯」は、意思決定に弱点も抱えているからです。
3. 企業、NPOとの協働視野に市町村合併をめぐる議論が加熱する中で、広域連合は影が薄い存在になっていますが、実はこの制度は活用次第で大きな可能性を持っています。南信州広域連合が、合併とは一線を画した18市町村統合による「地域自治政府構想」を提起したのも、広域連合による広域連携の実績があるからこそでしょう。 北海道町村会でも、合併を選択しない・できない場合の生き残り策として広域連合に着目し、広域連合制度を拡充強化した「連合自治体構想」を打ち出したといえます。そう考えると、すぐにでも活用可能な広域連合がまだごく一部にとどまっているのが不思議なくらいです。 ■もっと活用できる広域連合制度 広域連合は、区域内の住民が選挙で選んだ議員による議会を持ち、不満があれば直接請求も可能。国や都道府県から直接権限や事務の委任を受けることができ、都道府県と市町村による連合の道も開かれています。北海道町村会の連合自治体構想でも、現在14ブロックにある北海道の支庁が持っている機能を広域連合に移管する案が盛り込まれています。 広域連合でスケールメリットが発揮されると考えられる事務事業の中には、必ずしも「公営」に頼らなくともよいものが数多く含まれています。住民にとってより利便性の高い公共的なサービスを提供することを考えれば、そのサービスを誰がどう提供するのがベストなのかが重要になってきます。場合によっては、市町村や広域連合ではなく、民間企業やNPOに任せる方が良いケースも出てきそうです。 また、権限委譲の形で上から下へ業務を降ろすばかりでなく、米国のように町が業務の一部をカウンティに移転したり、行政と民間企業の競争入札でサービスの提供者を決める英国式の「強制競争入札」といった方法も、考えられます。このように、行財政の効率化を追求するなら工夫の余地はまだまだあり、それらを実行に移していくと同時に、地域づくりの根幹となる住民自治のしくみをしっかり固めることが求められています。
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