続・市町村合併の論点17
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2004/03/15 |
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<1>知事が牽引役、合併推進の勧告権合併特例法期限切れの2005年4月以降の合併推進策となる新法案の全容が明らかになりました。推進役としての都道府県知事の権限強化と、「合併特例区」の設定など環境整備が柱となっています。 ■自主合併必要と認めれば構想策定新法案は、2010年3月まで5年間の「新・特例法」と、2005年3月末までに知事への合併申請をした市町村に限って現行の特例措置適用を1年延長する「現・特例法改正」、さらに地域自治区を一般制度化する「地方自治法改正」の3法案から成っています。 現・特例法では財政優遇措置が合併推進の原動力と位置付けられてきましたが、特例債は廃止となり、新法下では都道府県知事の牽引力に大きなウエートが置かれます。知事は、これまでの「旗振り・後押し役」から「仲介・牽引役」へと押し上げられ、国の指針の「お墨付き」をバックに権限を振るう構図です。 知事権限は、「自主的合併の推進が必要と認められる」市町村を対象とした「合併推進構想」の策定から、協議会設置の勧告などに及びます。新市名や庁舎問題などで協議が紛糾した場合には、調整委員の任命を通じて斡旋・調停も行うことができる仕組みとなっています。 ■人口規模など目安は総務省「指針」に合併そのものを勧告するまでの強権は知事に与えていませんが、市町村の自主性が現行法以上に薄められる感は否めません。都道府県と市町村が原則的に対等の関係にあることを考えれば、都道府県の「助言・勧告権」は本来抑制されるべきで、国>都道府県>市町村の上下関係がベースにあることが気になります。 地方制度調査会が答申で「人口1万人」とした合併推進の目安に関しては、総務大臣の指針で規定されることになりそうです。この点も含めて、強制的な合併が上意下達で進められる懸念も否定できません。確かに「冷静で広域的な視野」は必要でしょうが、合併を地域再生の起点と考えるならば「地域住民の視点」こそが重要では。
<2>不安・激変緩和狙った「特例区」新・特例法では、合併特例債や3万人市特例などの「ニンジン」を引っ込める代わりに、知事に「手綱」を握らせると同時に、これまで二の足を踏ませる要因となっていた「障害」を低くすることも合併推進策に加えています。 ■旧町村を合併後5年間「温存」新たに制度化する「合併特例区」は、旧市町村の区域または複数の組み合わせの区域を単位とする特別地方公共団体で、法人格を持ちます。5年間の期限付きとはいえ、特別職の区長がいて、議会に当たる協議会も設置されるほか、住所表示に自治区名を冠することができます。 つまり、極端なケースでは、合併後も旧市町村の名前が残り、首長も議会も形式的には温存できることになります(区長、協議会メンバーは合併市町村長が選任)。協議会は地域振興などに関する意見を区長や市町村長に述べることもできます。 「マチの名前が消えるのは寂しい」「地域の声が反映されなくなる」「身近に役所がなくなる」といった不安が、合併に対する「拒絶反応」の要因でもあっただけに、激変緩和的な心理効果をもたらすことが予想されます。 ■「越県合併」「府県合併」の手続緩和「合併特例区」に準ずる自治組織としては、法人格を持たない「地域自治区」を一定期間設置できるとしてます(特別職の区長は合併市町村長が選任)。このほか、議員の在任特例や地方税の不均一課税など国の財源措置を伴わない現行特例措置は継続されます。また、地方自治法改正案では、長野県山口村と岐阜県中津川市のような「越県合併」については、特別の法制定によらなくとも関係議会の議決によって手続きできることとしています。同改正案では、都道府県合併についても同様の手続緩和措置を盛り込んでいます。
<3>枠組み制約された「地域自治区」新・特例法で創設する「合併特例区」は、課税権・起債権はないが独自の予算に基づく一定の財源措置を受け、集会所や里山の管理、地域振興イベントの開催、コミュニティバスの運行など地域住民の生活に密着した公共サービスも担うものとされています。法人格を持たない「地域自治区」とともに、住民自治を重視する考えに立っていると見られます。 ■学校区など単位、協議会は諮問に対応「地域自治区」については、地方自治法改正案で一般制度化を目指しています。旧市町村を単位とする新・特例法と違って、条例に基づいて学校区などを単位に自由に区域設定することが可能です。自治区ごとに、窓口業務や地域福祉など市町村長の権限事務を分掌する「区事務所」と、地域住民の意見をとりまとめる「地域協議会」を設置します。 ただし、法人格は持たず、区事務所の長は事務吏員から充てます。協議会のメンバーは、公選ではなく、市町村長が区域内住民から選任され、無報酬とすることも可能。協議会は、市町村長や関係機関からの諮問事項や区域に関する重要事項などについて審議し、市町村長らに意見を述べることが主な権限とされます。 ■改めて問われる住民自治の確立新・特例法の「合併特例区」、改正自治法の「住民自治区」ともに、地方制度調査会の答申にほぼ沿った内容となっています。答申では、これら住民自治組織については、住民自治の強化、行政と住民協働の推進の観点から、市町村の自主性を重視する考え方を打ち出していました。 しかし、協議会メンバーの公選、条例制定機能、課税権を持つなど自主性が高く、多様で柔軟な仕組みを持った英国のパリッシュ制度に比べると、物足りなさを感じます。地域内分権と協働、コミュニティを単位とした住民自治を進めるため、その枠組みをどうするかも含めて市町村・自治区の自主的な判断に任せて良いようにも思えます。 市町村合併は、国と地方の財政難の深刻化を大きな背景としているため、地方分権の推進・住民自治の確立の視点からの論議がなかなか熟成していかないのが現状です。一方で、コミュニティを取り巻く社会状況が大きく変化していることを考えると、地方自治の在り方について地に足の着いた国民的な論議を広めることが必要です。その意味でも、国や都道府県の動きを待つのではなく、市町村自身が具体的な提案を含めた声を挙げていくことが求められています。
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