212の21世紀〜マチは変われるか

第2部・評価編

 6.ベンチマーク
 住民満足度を76の指標でチェック

 米国西海岸オレゴン州のムルトマ郡では、行政サービスに対する住民の満足度を測る目安として七十六項目の指標を選定し、コミュニティの状況を把握しながら、より高い水準のサービスと効率性を実現しています。

 これらの指標は、「経済」「教育」「児童と家庭」「生活の質」「自治」「公共の安全」という大きく六つ分野に区分されています。それぞれの指標に基づき指標の変化、進行具合が数値で整理され、民間人を中心に組織する評議員会により「ベンチマーク・リスト」という形で報告されます。

 「ベンチマーク」とは元々、土地の高低を測量する際の基準のことを指しています。これになぞらえて、状況の変化を見ようと言うことです。

 ■何をしたかより成果重視

 たとえば「生活の質」に関しては、「家と職場の間を三十分間未満で通勤できる住民の割合」「住宅費の負担が所得の三〇%以下の世帯の割合」「街の落書きの数」といった指標が並びます。数値目標を設定して、数値の変化からコミュニティの状態を監視し、地域間の比較と併せて変化の原因を分析し、より有効な改善策を打っていくという手法です。

 ムルトマ郡のベンチマーク方式の最大の特徴は、行政がいろいろな施策や事業を展開した結果、住民の生活が実際にはどう変わったのか、どれほど満足できる状態になっているか、という「成果」に重点を置いていることです。

 住宅費の問題を例に取ると、従来型の行政では、「低所得者向けの公営住宅を○○戸建設した」とか「その費用は○○億円に上った。前年度より増やした」といった評価にとどまりがちです。住宅事情の改善についての住民に対する説明も、建設予算額や戸数の推移でしか行われていないのが実態です。

 これに対して、住民の住宅費負担がどの程度軽減されたか、住環境に関する満足感がどの程度得られたかを重視する考え方です。行政サービスを提供する側ではなく、受け手の側に身を置いての「成果主義」といえるでしょう。

 ■住民に単純明快な説明

 もう一つの特徴は、指標や目標が非常にわかりやすく設定されていることです。住民の満足度という「ものさし」を使っていることの結果でもありますが、「わかりやすさ」が住民参加を促す大きな要因となっていることは見逃せません。

 たとえば「家と職場の間を三十分間未満で通勤できる住民の割合の増加させる」という指標では、平均通勤時間の推移や他地域の状況などが明解な記述とグラフで表現されています。さらに、ベンチマークの基準を維持することが「なぜ重要か」については「長い通勤は、環境汚染、交通渋滞など生活の質すべてに影響する。コミュニティには適切な居住と仕事と交通システムが配置されなければならない」と説明しています。

 ムルトマ郡のベンチマーク・リストは、行政の舵取りの方向を職員に対しても住民に対しても明確に示しているわけです。日本でも最近、住民に対し行政の実態を明らかにするという説明責任「アカウンタビリティ」の重要性が叫ばれるようになってきましたが、ベンチマークリストは、この課題を極めて単純明快に実現しています。

「生活の質」に関するムルトマ郡のベンチマーク

No.57  人口千人当たりの公園と緑地空間の広さを監視します
No.58  住宅にかかる費用が所得の30%以下になる勤労者の割合を増やします
No.60  公園、広場、公共交通機関、小学校、商業地区、
道路から800m以内に住む人の割合を増やします
No.61  近隣の住み心地を高く評価する人の割合を増加させます
No.62  家と職場の間を30分間未満で通勤できる住民の割合の増やします
No.63  公共交通機関で通勤する人の割合を増やします
No.65  街の落書きを減少させます
No.66  1990年を基準に二酸化炭素の排出量を減少させます
No.68  国の水質基準を満たす地域内の河川や小川の割合を増やします
No.69  1人当り水の使用量の減少させます
No.70  1人当りのエネルギー消費量を減少させます
No.71  1人当り年間のゴミの量を減少させます
No.75  1人当り年間の芸術に対する公的、私的資金援助額を増やします