212の21世紀〜マチは変われるか

第3部・情報編

 9.富士山展望
 ベンチマークが論議の「ものさし」/まちの過去・現在・未来示す


 地域の情報を共有し、行政と住民のコミュニケーションを通じて市民参加によるまちづくりを進める。これが「地方主権時代」の基本となりますが、コミュニケーションを新たな政策に発展させていく上では、第二部で触れた「行政評価」が極めて有効な手法だと思います。一定の目標に沿って行政活動を評価し、成果を改善につなげていく行政評価の内容については詳しく触れませんが、「共通語」としての機能について考えてみます。

 行政評価システムは▼成果を最も重視する▼住民満足度を指標とする▼数値目標を徹底管理する▼プロセス、結果を公表する〜ことを原則とし、現在立っている場所と、目指すべき山頂がだれにも分かりやすく示されている点に特徴があります。だれにも分かりやすいから、だれもが参加しやすい。行政と住民の「共通語」として住民参加を押し進める有力な道具といえるのです。

 ■一挙両得の行政評価

 特に、先に紹介した米国西海岸オレゴン州のムルトマ郡に象徴される「ベンチマーク・リスト」などは、子供にも分かりやすいスタイルや表現法を取っている点で優れています。「ベンチマーク」とは元々、土地の高低を測量する際の基準のことを指しています。これになぞらえて、状況の変化を見ようと言うことです。

 たとえば「生活の質」に関しては、「家と職場の間を三十分間未満で通勤できる住民の割合」を指標の一つとし、その割合の変化をグラフで表示しています。この指標が行政と住民のコミュニケーションの場では共通の「ものさし」となります。論点は「次は改善のためにどんなを打つか」とすぐに絞られて行くわけです。住民に対し行政の実態を明らかにするという説明責任「アカウンタビリティ」と同時に、住民参加を推進する一挙両得の手法ともいえます。

 国内でも行政評価を導入する取り組みが活発化してきていますが、まだ個別の事務事業に対する評価にとどまり、ベンチマークを共通語にして住民と積極的な政策論議を進めるという段階までは至っていません。

 ■小学生でも分かる指標

 そうした中で東京都が作成した「東京都政策評価イメージ案〜トウキョウ・チェックリスト99」は、本格的なベンチマーク方式を取り入れている点で注目されます。九十九項目の指標は都政モニターアンケートの結果に基づいており、行政評価導入の初期から情報を公開し、市民参加を進めている点でも評価されます。

 イメージ案では、政策分野を「福祉・医療」「安全」など大きく十二に区分した上で、それぞれの分野に四〜十八の指標を設定しています。このうち「産業・エネルギー・ごみ・リサイクル」については、「低公害車の普及率」「一年間に富士山の見える日数」「一トン当たりのごみの処理費用」など、小学生でも分かりやすい指標が並んでいます。

 「ごみ処理費用」を例に取ると、八〇年度には約二万四千七百円だったのが、九四年度には五万円を超えて以降、増加傾向に歯止めがかかっていません。チェックリストが実際に運用されるようになれば、この指標に基づいて目標値が設定され、目標に到達するための施策が論じられることになるでしょう。

 指標を基に対策を考えていく中で、ごみを減らし、余計な歳出を抑えるためには市民が何ができるのか〜といった議論の発展も期待できます。「参加の階段」でいうと「加わる」「支える」段階にステップアップすることもごく自然に進んでいきそうです。