続・市町村合併の論点11
合併論議と住民参加 ワークショップ活用法

2003/07/09
(オンラインプレス「NEXT212」126号掲載)

 

<1>双方向のやり取りで合意形成  

 統一地方選挙を経て、市町村合併を巡る議論が新たな段階を迎えています。合併に限らず、地域主権時代に対応していくためのポイントは次の5点。

 (1)まちの将来像について首長が明確な理念を持っているか  (2)まちづくりの在り方を考えるための情報を住民と行政が共有しているか  (3)的確な情報に基づいて住民が議論に参加しているか  (4)職員が既成概念に捕らわれずに考え、行動できるか  (5)議員・議会が本来の機能を発揮しているか。

 ここでは、合併を含めたまちづくりの議論に住民を巻き込む手法の一つとして、ワークショップの運営について取り上げます。

 ■学習を通じて住民の創意引き出す

  ワークショップは、一定の課題や目標に沿って、住民同士が勉強し、意見交換しながら解決法を見つけ出したり、計画をまとめる活動を指します。公聴会や住民説明会のような一方通行による「形式的な参加」と異なり、双方向のやりとりの中で、参加住民の自主性や創意を生かしながら合意を形成できる点に、大きな特徴があります。

 行政による政策決定の過程に住民の意向を反映させる手法として条例づくりなどに活用されていますが、地域の未来を幅広い視点から検証する合併論議にこそふさわしい住民参加の手法の一つといえるでしょう。2002年1月の合併で西東京市となった保谷・田無両市の場合は、任意協議会の段階で、ワークショップ形式による市民フォーラム(4回開催)と市民代表・学識経験者らによる将来構想策定委員会(11回開催)をうまく絡み合わせながら、議論を深めました。

 ■グループ単位、ゲーム感覚で進行

  市民フォーラムでまず注目したいのは、議論の入り口の「敷居」をできるだけ低くし、自由な発想や発言の機会を広げる工夫を凝らした点です。5〜8人程度のグループに分けた上で、それぞれの意見や質問はポストイットと呼ばれる大きめの付箋に書き込み、ボードに貼り付けていきます。これを分類しながら問題点や解決法を整理していくのです。自分が小学生だったら、子育てママだったら、元気なお年寄りだったら〜といった仮想問答や、地図上に暮らしの課題をマッピングしていくなど、ゲーム感覚で進行していくため、気軽に発言でき、発言者が特定の人に偏らず、参加の満足度も高かったそうです。

『合併川柳15選』
  • 主人公忘れて 走るな合併に
  • 合併で 箱をつくらず 人づくり
  • カタカナが やたらに多い まちづくり
  • 合併で ほんとにできるの 行財政改革
  • まちづくり 老いも若きも ワイワイと
  • 縁談を 話しはじめて 早三十路
  • 本当は ちょっと気になる 新市名
  • 合併は 新世紀の 一里塚
  • 花一つ 生きるも死ぬも 今後かな
  • 合併で 市名変われど 暮らし変わらず
  • 合併は 夢をひとまず 横に置く
  • 知らぬまに 名前が消えた おらがまち
  • 合併は かけ声倒れの 市民自治
  • フォーラムで 聞いた意見は 神棚へ
  • 合併で いちたすいちを さんとする

(21世紀市民フォーラムから)

<2>多角度から検証、解決策を発見

 ワークショップは、疑問点を氷解させ具体的な発案の機会を参加者個々人に与え、結果的に濃密な議論と合意の形成をもたらす効果がある一方で、一度に多数が参加できないという問題もあります。保谷・田無の場合は、3か月間に4回開催し計159人が参加しました。ワークショップの内容は、その都度、協議会便りやホームページなどを通じて広報し、住民の間で情報を共有する工夫を凝らしました。また、その後の報告書に基づく住民説明会や住民意向調査、タウンウオッチングなどさまざまな手法を組み合わせることで、住民参加の機会を広げた点も見逃せません。

 ■高質な情報が住民の知恵生み出す

 ワークショップの場では、参加した市民自身が問題解決の糸口を見つけ出し、自己決定するのに十分な情報を提供することにも重点が置かれました。  例えば、第1回目のフォーラムで「まちづくりの課題ベスト10」を発見したのに続いて、2、3回目では「特に気になる課題」として東大農場の活用方策や高齢者福祉など3つのテーマに絞り、詳細な資料が提供されたほか、両市のヘルパーさんに対するヒアリングも行われました。良質な情報がベースになったからこそ議論が具体的に掘り下げられ、問題が多角度から検証されました。

 ワークショップが活発に行われたことは、会場で行き交ったポストイット(付箋)の数からも容易にうかがい知れました。この結果、シルバー人材の専門家登録制度や子育てサポートセンターの創設といったワークショップで浮上した市民の提案が、合併後の新市の将来構想に肉付けされていったのです。

『暮らしの課題発見・ベスト10』 

第1位−在宅介護、福祉サービスの充実(ヘルパー増員、在宅介護制度の充実等)  第2位−子どもの遊び場が少ない(原っぱや広場がほしい、公園が少ない等)
第3位−道路の整備(利用者にあった整備、歩道をつける、安全な通学路等)
第4位−駐輪場の整備(駅前駐輪場が少ない、自転車を置く場所がない等)
第5位−子育て環境の充実と支援(保育園や学童保育の充実等)
第6位−公共施設の充実(スポーツ施設の充実、生涯学習の充実等)
第7位−地域商業の活性化(商店が少ない、女性起業家の支援、障害者の働く場等)
第8位−交通手段の充実(コミュニティバスの運行、深夜タクシーの確保等)
第9位−学校の通学路、区域の見直し(学区域の見直し、学年1クラスを避ける等)
第10位−その他(オシャレで子連れで安心して行ける店確保、いじめをなくす等)

<3>議論目標と活用の方向を明示

 ワークショップはどのような流れで展開されるのでしょうか。「身近な生活圏の課題を検討しよう」をテーマにした保谷・田無の第3回フォーラムでは、概ね次のようなプログラムで進行しました。

 【はじめに】

  フォーラムの位置付けと全体の流れ、この日のプログラム、検討課題に関する資料などについて事務局が説明。

 【自己紹介】

  「自己紹介カード」に合併への思いを一言書いて提出。グループごとに、地図上に住まいをマッピングしながら「自己紹介カード」を順に紹介。

 【地域別課題の検討】

  中学校区を単位に、福祉・教育・防災・環境・施設整備などの視点から考え、地域の中で守っていきたいことはハート形のポストイットで、改善したいことは星形のポストイットで地図上に貼り出し。

 【グループ整理】

 各グループごとに、重点的に議論すべき地域の課題ベスト5を表にまとめる。問題点地図とともに壁に貼り出し、重点課題を全体の場で確認する。

 【まとめ】

  将来構想策定委員会のメンバーからのコメント。参加者は感想アンケート記入。

 ■進行役の育成も課題

  感想アンケート内容を見ると、ワークショップ方式に対する評価は概ね良好で、「楽しく参加できた」という声が多く聞かれました。市職員がどう関与するか(このフォーラムでは市民同士の議論を重視した)、少数意見を含めフォローアップなど運営上の課題も浮かび上がりました。 ワークショップ手法は、合併をめぐる住民論議の場でもさまざま活用されるようになっていますが、議論の前提となる情報共有や、運営の工夫などでより有効に活用できると思われます。以下に、ワークショップ活用の主なポイントをまとめます。

  1. 開催ごとに予め目標を明確にする

  2. 合意がどう政策に反映されるのか明示する

  3. 誰もが参加でき、公開の場で開かれる

  4. 議論し、判断するのに十分な情報の提供

  5. 議論の過程、合意の内容が広くタイムリーに周知される

  6. さまざまな住民参加の手法と複合活用する

  情報共有の具体的な方法としては、静岡・清水両市が試みた「タウンウオッチング」などもあり、参加を広げる「インターネット・ディベート」も新たな方法として注目されます。また、中立的な立場で議論を円滑に進行させると同時に、適切な合意をまとめあげていく「ファシリテーター」の活用、人材育成も、今後の課題となるでしょう。

 
 

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