212の21世紀〜マチは変われるか

第2部・評価編

 2.苦肉の策
 吹き出した住民サービスの「切り詰め」


 九七年度決算に基づく二百十二市町村の財政評価をみると、過疎地が財政難にあえいでいる一方で、総合評価の上位には札幌市や函館市など中核的な都市に隣接したまちが目立っています。中核的な都市や郡部からの人口流入や企業立地が、財政基盤の強化につながっていることをうかがわせます。

 ただし、これら中核的な都市も問題なしとはいえません。財政基盤や財政力の評価は高くても、健全度で低い評価が見られるまちが少なくないからです。また、評価が比較的高い水準にあっても、このデータからは政策の具体的な内容は分かりませんし、借金はないけれど行政サービスは低水準といった極端なケースもあり得るからです。
この財務評価はそんな要素を含んでいることを踏まえて、それぞれのまちの財政のアウトラインをつかみ取っていただきたい。

 ■過去最悪の98年度決算

 自治省がまとめた九八年度の都道府県決算を見ると、「過去最悪」といっていい内容です。間もなく出る市町村分についても、ほぼ同じような傾向にあるはずです。

 歳入から歳出額を引いて、さらに翌年度に繰り越さねばならない額を引いたものを「実質収支」と呼びますが、これがマイナス、つまり赤字となった自治体が、東京、神奈川、愛知、大阪の四都府県に上っています。赤字が発生したこと自体八一年度以来十七年ぶりで、赤字総額(八百七十二億円)は七五年度に次いで過去二番目の記録になったのです。

 「財政編」で取り上げた「経常収支比率」(人件費や借金の返済などどうしても必要な経費が、一般財源に占める割合)が「赤信号」の百%を超えたのが大阪、神奈川、愛知の三府県。九〇%以上の「黄信号」は二十二都道府県に増え、北海道は過去最悪で全国ワースト十二位の九四・〇%と黄信号の点滅状態に陥っています。

 財政難の深刻化が安易な「リストラ行政」につながる危険性をはらんでいると警告しましたが、早くも現実化してきています。

 ■福祉にもリストラの波

 地方自治体は暮れから年明けにかけて新年度予算の最終まとめの段階に入っていますが、新聞報道などで取り上げられる話題の多くは「切り詰め」あるいは「切り捨て」パターンの予算案です。

 最も象徴的なのが、青島前知事が一年ほど前に「非常事態宣言」をした東京都です。七十歳以上を対象としたシルバーパスの手数料負担導入の動きは先にも紹介しましたが、これに続いて老人福祉手当の縮小・全廃、乳幼児医療費助成の自己負担導入など福祉政策の大幅見直しが進んでいます。さらに、地方交付税を受けていないことを背景に戦後一貫して無料にしてきた都立高校の入学金も徴収する方針を取っています。東京都の政策、施策は他の自治体に対する影響力が大きく、福祉予算の削減の流れが、地方の市町村にも波及することは十分考えられます。

 また、財政難の中で経費削減のターゲットにされているのが、人件費です。広島県は十年間で職員の一割三千六百人の削減方針を取り、宮城県は全職員の給与を二年間で百二十億円削減、道は職員手当カットの継続により来年度から三年間で六百億円の経費削減を目指すなど、緊縮態勢で臨んでいます。

 民間企業が人件費削減どころか人員削減・リストラを進めていることからすると、自治体の対応はまだ甘いようにも見えます。しかし、特に直接的な住民サービスのウエートが大きい市町村の場合は、安易な人件費切り詰めが、そのまま行政サービスの質的なダウンにつながりかねない危険を含んでいることも考えなければなりません。
都道府県に比べると地方税収入のウエートが低い市町村は、急降下のカーブは緩くなっていますが、根本的に財政力、財政基盤の弱い市町村はより過酷なリストラ行政を強いられているのが実情です。

 ■大義背に公共料金値上げ

 帯広市の場合は、既に新年度から水道料金を平均一三%余り値上げし、累積欠損金を一気に縮小することを決めています。水道事業の健全化の一策とはいえ、人口十万人以上の道内の都市で最も高い水道料金が、市民の肩に重くのしかかってきます。

 また釧路市は、今年秋に予定される市長選、市議選で、これまでの即日開票を翌日開票とし、全世帯配布の選挙公報を廃止、選挙ポスター用の掲示板も減らして総額千万円ほどを切り詰めようとしています。住民サービスの低下には直接つながらない苦肉の策とはいえ、政策の重要性が問われている時代に政策の内容が十分住民に伝えられるのか、疑問も残ります。

 地方自治体の財政難は深刻化していますが、このことによって地方自治体は生き残りの道を自らの手で模索しようとしています。「あれもこれも」を求める時代から、限られた財源と人材、地域資源を生かしつつ「あれかこれか」、政策の選択が問われる時代に変容してきているのです。