212の21世紀〜マチは変われるか

第1部・財政編

6.自治体破産〜「甘い誘惑」
 「ふるさと創生」に落とし穴

 市町村の借金が膨らんだ背景には、法律が認めている「公共施設の建設事業、土地購入」が増えたことがありそうです。
 道内二百十二市町村の地方債決算額の推移を見ると、八八年度は総額二兆一千億円で歳入全体の九・八%だったのが、九三年度には三兆円を超え、九七年度は四兆五千億円で一三・六%と拡大の一途をたどっています。地方債発行の目的別に見ていくと、やはり「公共施設の建設事業費、土地購入費」の項目の増加が著しいことがわかります。

 ■公共投資一気に拡大

 さらに事業の種別で見ると、特に市町村が行う「一般単独事業」に関した借金のウエートが拡大しています。九七年度末の道内全市町村の借金残高では、その三八%も占めています。次いで、国の直営や補助金による「一般公共事業」が一〇%を占めます。

 「単独」とか「公共」とかわかりにくい言葉が出てきますが、国や地方自治体が行う公共的な建設事業を総称してここでは「公共事業」と呼びます。お役所言葉に従うと、市町村が国の補助を受けて行うものを「公共事業(補助事業)」と呼び、市町村がそれぞれ自前で資金を用意して単独で行う「単独事業」と区別していますが、広い意味ではいずれも公共事業ということになります。市町村が行う狭い意味の「公共事業」は、「補助事業」と呼ぶ方が理解しやすいでしょう。

 その公共事業が九〇年代に入ってから急速に増大したことが、市町村の借金拡大の大きな要因の一つなのです。
 では、どうして公共事業がそんなに増大していったのか。
 最大の原因は、バブル経済の崩壊による不況の深刻化に伴って、国が公共事業を重点にした不況対策を相次いで打ち出したことにあります。公共投資の拡大は確かに景気を下から支える効果を見せ、特に民間投資が元々少ない北海道などでは公共投資がかろうじて地域経済の崩壊をカバーしてきました。

 ところが、国は補助事業よりも市町村の単独事業による公共事業の推進に力を注ぎました。市町村の側からいうと、自前でカネを用意しなければならない単独事業より、国の補助金を受ける事業の方が好都合なわけですが、国は単独事業に市町村の目を向けさせる「うまい手」を使ったのです。

 たとえば、総合運動公園を総事業費百億円で建設するとしましょうか。国の補助事業の対象に選定されれば、半分の五十億円は国庫補助金でまかなわれるので、町としては残り五十億円の財源を考えれば済みます。
 これに対して国は、「補助金は出さないけれど、総事業費の七五%までは町が借金をしても構わない。さらに一五%分は地方交付税で補いましょう」と言い出したのです。

 ■国が借金の「すすめ」

 要は「単独事業でやりなさい」ということなのですが、町にとって見ると、五十億円を自前で用意しなければ建てられなかったホールが、十五億円を都合すれば実現するわけです。一気に七十五億円もの借金を背負うことに問題はありますが、これについても国は、町の財政力に応じて地方交付税で返済を援助する方針を示したのでした。

 これらの単独事業は「ふるさとづくり」ブームを巻き起こしました。竹下内閣時代の「ふるさと創生一億円事業」がその先鞭を付け、九〇年代に入ると国は「ふるさとづくり事業」「地域づくり推進事業」「農産漁村ふるさと事業」「ふるさと市町村圏基金」など多彩なメニューを用意しました。
 市町村はこぞってこれに飛び付き、競って施設整備に走りました。この結果、地域見直しの機運が盛り上がる一方で、借金も膨らんでいったわけです。