212の21世紀〜マチは変われるか

第1部・財政編

10.自治体破産〜再建の大義名分
 財政硬直化まちづくり阻害

 これまでは主に、市町村がまちづくりを進めるために、どうやって資金を工面しているか、という点を見てきました。特に北海道には財政力のひ弱なまちが多いため、「地方債」という名の借金と、国から入る「地方交付税」を頼りに台所を切り盛りしている実態が浮かんできました。
 では、これらのカネがどういう形で使われているのかを見てみましょう。

 歳出の面では、既に触れたようにそれまでの借金の返済に充てるカネ(「公債費」)がかなりのウエートを占めます。これに役場職員らに支給する人件費と扶助費を加えた支出は、まちの財政にとって最低限必要な「義務的経費」と呼ばれます。さらに公共施設の維持管理費や、施設管理のための委託料などの物件費を加えたものが「経常的経費」です。一定の行政水準を確保する上で、どうしても支出せざるを得ない性質を持っているもので、新たに公共施設を整備したり災害復旧などに充てる「投資的経費」と区分されます。

 ■公債費、人件費が圧迫

 「経常的経費」が、支出全体の中に占める割合が大きくなればなるほど、新しい公共施設の整備や住民サービスの向上につながる「投資的経費」に回せるカネが少なくなってしまう、という構造です。家計にたとえると、食費や光熱費がかさんで服を新調したり家族旅行に行く費用が捻出できない、といった状況です。地方財政は、実はこのたとえにそっくりな状況に置かれているのです。

 経常的経費に充てた一般財源の割合を示す「経常収支比率」という指標があります。健全な財政を進めるためには七〇〜八〇%が適正水準とされており、道内市町村も八八年度は七八・二%とこの範囲内に収まっていました。ところが、九四年に八〇%台に乗って以降、連続してその比率が上昇しています。それだけ、財政が硬直化し、新しいまちづくりに取り組む余裕がなくなってきているということです。

 表を見ると、十四市町村が九〇%を超え、小樽、室蘭、釧路、北見など地方の中核的な都市が目立っています。財政の硬直化は、自主的なまちづくりを進める上で大きな障害となるため、見過ごせない現象です。
 台所に余裕がなくなってきた最大の原因は、これまで説明したように借金の返済額が年々拡大していることで、ローンの返済に追われるサラリーマン家庭とも似ています。

【経常収支比率ランキング】

 ワースト 10  ベスト 10

順位

市町村

比率(%)

順位

市町村

比率(%)

1

夕張市*

115.3

1

泊村

47.6

2

岩内町

99.0

2

鶴居村

56.3

3

小樽市

98.9

3

新得町

65.1

4

三笠市

97.3

4

厚沢部町

65.4

5

赤平市

96.8

5

上士幌町

65.5

6

室蘭市

96.1

6

中札内村

66.3

7

根室市

94.9

7

標津町

68.6

8

留萌市

94.8

8

和寒町

68.9

9

神恵内村

93.1

9

当麻町

68.9

10

釧路市

92.9

10

陸別町

69.2


 ■安易な削減の動き

 こうした「公債費」の拡大に次いで、台所を苦しくしている要因が、人件費と物件費の増大です。「人件費」は経常経費に充てた一般財源の約三二%を占めています。職員の給料、手当、退職金はじめ議員や各種委員の報酬などからなり、全体の大きさは、職員総数と給与水準、それに職員の平均年齢によって決まってきます。

 特に、不況下でベースアップやボーナスの水準が伸び悩むだけでなく、人員リストラが常識化するに連れて「民間に比べて高すぎる」「人数も多すぎないか」といった声が高まり、地方公務員に対する風当たりは強まるばかりです。そんな状況を背景にして、地方自治体でも人件費削減や職員、議員数削減の動きも目に付きますが、住民サービスの高度化という点からも、やみくもな削減策は避けなければなりません。